がんの犬のための手作りご飯や食事〔獣医師監修〕

Homemade food for dogs with cancer

愛犬のがん告知はあまりに精神的打撃が強く、どうしても飼い主は精神的に不安定になってしまいます。

私も愛犬が若くしてがんを発症したことから約3年の間、毎日のようにこの言葉と向き合ってきました。

一度目の発症が血管肉腫というがんで、愛犬のバーニーズマウンテンドッグはまだ僅か3才半。

それを機に、愛犬のがんが転移しないよう自分に何ができるのか考えた結果が、食事管理と愛犬のQOLの向上に努めるためサポートすることでした。

今回は、愛犬のがんから学んだ食事管理について簡単にご紹介致します。

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がんと食事

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愛犬のがんと手作りご飯

犬のがんが食事で治るかといったら、残念ながらそんなことはありません。

愛犬の場合、一度目の血管肉腫は抗がん剤を使用せず、最終的には完治という嬉しい結果でした。

しかし、悪性腫瘍の摘出手術で完全に悪いものを取り除いた上での食事管理でした。

2度目の組織球性肉腫に関しては、やはり抗がん剤は利用せずに1年9ヶ月転移せずに済みましたが、この時も肺の腫瘍を(余裕をもって)大きめに摘出するために手術を行った上での食事管理。

定期的な健康診断を行って早期発見・早期治療を行ったことが功を奏したのでしょう。

そして、2回目のがん摘出手術後1年9ヶ月経過し、残念ながら再び組織球性肉腫が全身に、今度は一気に発生してしまいました。

しかしながら、悪性度の非常に高い組織球性肉腫が術後、抗がん剤を使用せずにここまで転移・再発しなかったこと。

若くして発症した血管肉腫が抗がん剤を使用せずに転移しなかったことは、もしかすると手作りご飯で食事管理を徹底していたことが理由の1つだったのかもしれません。

食事管理の大切さ

食というものは、手術や抗がん剤治療、放射線治療などの西洋医学ほどの力は持っていません

しかし、犬の口から直接体内に入り込み体をつくる重要な要素・エネルギー源となるため、愛犬の健康維持を考える上で食事管理は必ず配慮しなければいけないものです。

犬のがんの場合、残念ながら現状では抗腫瘍効果をもつドッグフードは販売されていません。

しかしながら、食事はがんに直接的に働きかけることはできなくとも、間接的にがんが進行しにくい・がんが再発しにくい体づくりをすることは可能です。

悪性腫瘍の原因は大きく「内因」と「外因」に分けられますが、このがんの原因となる外因のうちの1つとして食べものや食事に含まれる添加物が挙げられます。

こういった背景から、犬のがんと食事の関係性を完全に否定することはできないのです。

がんの犬を支える食事管理

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炭水化物の制限がされた食事

がんの進行制御に関する確実な効果が証明されているわけではありませんが、一般的にがんを発症している犬には低炭水化物の食事が推奨されています。

炭水化物とは、糖質と食物繊維の総称を意味しますが、糖質が多い食べものはがんの進行を応援してしまう(がん細胞の栄養的役割を補う)可能性がある考えられています。

そのため、極力犬の手作りご飯やドッグフードでは制限したい栄養素です。

私の場合は、愛犬の手作りご飯では小麦やトウモロコシはもちろん、米類も使用していませんでした。

炭水化物を制限することで体のエネルギー源が不足しないよう、消化吸収性の良い良質な肉や魚などの動物性タンパク質を豊富に使用。

愛犬の場合は亡くなる1カ月前までは運動量も多かったので、運動量に見合ったエネルギー源を供給するよう工夫していました。

その他、炭水化物は犬ががんの場合、代謝異常を最も引き起こしやすい栄養素と考えられているため、極力避けるよう工夫が必要です。

免疫力の高まる食事

免疫力とは、犬の健康に被害を与える危険性のある細胞や細菌、ウイルスなどと闘うために必要な体の防衛機能で、抗がん剤を利用している犬の場合は、特に免疫力が低下しやすいので食事への配慮が大切になります。

抗がん剤を利用していなくとも、がんを発症している場合は体内のがん細胞が増えないよう、特に体の免疫力を整えておかなければいけません

免疫力を整える・強化するためには十分な睡眠・(可能な場合は)適度な運動、ストレスフリーの生活をさせることが大前提ですが、それらに合わせて食事管理を行うことが大切です。

抗酸化作用の高いファイトケミカルが含まれる食べものを手作りご飯で使用したりすることも大切ですが、何より犬の腸内環境の健康維持に役立つ食事を心がけるのがポイントです。

腸には免疫細胞が多く集中しており、犬の場合個体差や年齢による差はあるものの一般的に体全体の60%~70%程度の免疫細胞が腸(腸管)に集中しているといわれています。

そのため、私の場合、手作りご飯では消化しにくい炭水化物を殆ど使用せず、良質な鹿や馬肉、サーモンなど使用。

それに加えて、ひきわり納豆やヨーグルトなどの発酵食品、適度な食物繊維(水溶性)を取り入れるなどして、便の状態を日々確認しながら手作りご飯による食事管理を行っていました。

活性酸素をためない食事

活性酸素は、犬の体に入った酸素の一部が他の物質と結びつくことで酸化力のある物質に変化。

これが細胞に結びつくことで老化促進やがん細胞の増加を促進する原因になります。

この活性酸素を除去するために役立つのが抗酸化作用のある食べもので、人参に多く含まれるβカロテンやブロッコリースプラウトなどに含まれるスルフォラファンなどが一例として挙げられます。

ただし、βカロテンはビタミンAに変換されますが、脂溶性ビタミン全般を中心にどんな食事でも与えすぎは過剰症リスクを高めるので、極端に多く与えないことが大切です。

また、放射線治療を行っている犬の場合、特に活性酸素が生じやすくなるという話も耳にしますので、適切な水分摂取を心がけ体に不必要なものをため込まない食事管理を行うことが大切です。

体を冷やさない食事

体を冷やさない食事に関しては、直接的に犬のがんの進行を左右するというわけではありませんが、体を冷やすことで免疫力の低下を引き起こしやすいので気をつけましょう。

特にがんを発症する犬の多くが老犬であり、運動不足により体が冷えやすい状態になっていることがあります。

旬の食材は栄養価が高く、犬の手作りご飯で取り入れる方が多いのですが、冷房を利用している場合は体を冷やしやすいトマトやキュウリなど夏の野菜にも配慮が必要です。

犬の場合、一般的には人と比較して寒さに強いといわれていますが、特に腸の冷えには細心の注意が必要です。

良質な食事を心がける

当たり前のことではありますが、健康体の犬であってもがんを発症している犬であっても化学合成添加物や酸化した食事は健康被害を引き起こす原因になります。

全ての添加物ではありませんが、化学合成添加物の多くは長期継続利用することで発がん性リスクが高まるものが多く、酸化した食事は嘔吐下痢などの消化器系症状に。

それだけでなく、活性酸素を発生させて健康な細胞の増殖を妨害する原因になります。

手作りご飯の場合は、栄養バランスへの配慮はもちろん使用する食材の鮮度にも気をつけなければいけません。

がんの犬を支える食事管理の注意点

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がんの犬を支える食事管理に関してご説明しましたが、これらはあくまで基本的なことであり、がんの種類や状況、また犬の状態によって食事管理で優先させなければいけないポイントは変わります。

例えば食欲が低下している犬の場合、何より嗜好性の高まる食事で食欲を上げることが第一前提になることもありますし、がん以外に併発している病気があれば他の病気への配慮も必要。

消化管腫瘍がある犬の場合、脂肪分を減らした食事に切り替えることもありますし、腫瘍によって発熱している犬の場合は、食事で体の内部を温めないよう工夫した方が良いケースもあります。

食事管理をする上では、何より現状犬の体で何が起こっているのかを把握することが大切ですので、都度食事で重要視すべきことを獣医師に確認しながら工夫することが大切です。

食欲がない犬のための薬

少し前まではがんを中心に、病気によって食欲がない犬のための食欲改善効果が期待できる薬がありませんでした。

そのため、犬の食欲を改善したい場合、ステロイドを中心に何かしらの他の目的で使用する薬の副作用として食欲改善を見込むことしかできませんでした。

しかしながら、数年前にアメリカで食欲増進剤(ENTYCE/ エンタイス)が販売され、日本でも取り入れている動物病院があるようです。

薬の使用に関しては獣医師の判断や飼い主の意向が大きく関わってきますが、犬の場合も末期になると食欲が完全になくなってしまうこともあるので、がんと闘う犬を支える飼い主の選択肢が一つ増えたと考えることができます。