飼い主さんの多くが、愛犬のがんを治療しない選択肢はないと思っているのではないでしょうか。
中には、治療しない選択をした飼い主さんを非難する人もいるでしょう。
しかし、犬のがんはそう単純ではなく、時には治療しない選択をしなければいけない場合もあります。
今回は、犬のがんにおいて治療しない選択をするケースや治療しないときに重要なことや過ごし方をご紹介しますので、愛犬のがん治療に取り組もうか悩んでいる飼い主さんはぜひ参考にしてください。
愛犬のがんにおいて治療しないケース
愛犬にがんが見つかっても、治療しない選択をするときとはどういう場合なのでしょうか。
がんは早期発見、早期治療によって寛解(※1)や完治も目指せる病気で、愛犬を治療しない選択は自己判断だけでするべきものではなく、かかりつけの獣医師とよく相談して決めることが大切です。
とは言え、治療しない=治療したくても治療できない場合もあります。
ここでは、愛犬のがんにおいて治療しないケースを実体験とともにまとめてみたので、治療しない選択をするかどうかの参考にしてください。
(※1)寛解(かんかい):一時的もしくは永続的にがんが縮小や消失している状態
愛犬にがんが発覚した時点で手術できないケース
治療しない選択をするときの1つ目は、愛犬にがんが発覚した時点で手術ができない場合です。
犬のがんは人間に比べて進行が早く、発覚した時点で既に転移していたり、複雑な部位にがんができているときは手術することができません。
また、リンパ腫のように全身性のがんであった場合も同様です。
その場合、抗がん剤やステロイドによる治療や放射線治療などの対処療法を行うこともあります。
しかし、抗がん剤の効かないがんの場合や、放射線治療も難しい場合もあるため、何も治療しない選択をせざるを得ないときもあります。
愛犬のがんを治療しない選択をした実際の体験談
私の愛犬のチワワは、膀胱炎で動物病院を受診した際に脾臓のがんが見つかりましたが、すでに全身に転移しており手術もできず、余命数日~1ヶ月と告げられました。
1ヶ月半前に健康診断をしたときには何も異常はなく、こんなにも急激に進行するのかとショックを受けたものです。
獣医師から、余命を削るリスクを覚悟して一か八かの抗がん剤治療に望みをかけるか、治療しない選択をするか迫られ、セカンドオピニオンでほかの病院の獣医師と相談して抗がん剤治療はせずに緩和ケアを取り入れながら余命を過ごしてもらうことになりました。
緩和ケアとは
緩和ケアとは、がんに伴う心と体のつらさを和らげることです。
愛犬が年齢や健康状態的にがんの摘出手術ができない
治療しない選択をするときの2つ目は、愛犬の年齢や健康状態的にがんの摘出手術ができない場合です。
犬のがん治療は、がんの種類や状態にもよりますが、完治を目指す目的でがんの摘出手術が第一選択となります。
しかし、手術を行うには全身麻酔が必要となり、愛犬の年齢や健康状態によっては全身麻酔のリスクが高すぎて手術ができないということもあります。
飼い主さんの中には治療しない選択をしたわけではなく、こうした理由で獣医師から止められてしまったということも。
愛犬のがんを治療しない選択した実際の体験談
私の愛犬のミニチュアダックスは16歳のときに、腎臓に腫瘍らしきものが見つかりました。
年齢によるリスクよりも腎臓病になっていたことのほうが問題となり、かかりつけの獣医師と2次診療の獣医師が話し合った結果、手術はできないという結論に至りました。
また、その後に切除していた乳腺がんも再発しましたが、前述したように手術ができない上に抗がん剤が効かないがんということで、治療しない選択肢しかありませんでした。
幸いなことに進行が緩やかな乳腺がんだったため余命宣告されることもなく、がんと供に犬生を送ってもらうことができました。
がんが発覚しても愛犬の治療費を支払えないケース
治療しない選択をするときの3つ目は、がんが発覚しても愛犬の治療費が支払えない場合です。
犬には人間のような健康保険制度がないため、ペット保険に加入していない限り治療費は100%自己負担です。
犬のがんの治療費は、高額になる傾向にあり、飼い主さんの中には治療費が支払えないから治療しない選択をすることも…。
確かにお金の問題は深刻ですが、だからといって何もしないことは愛犬のためにはなりません。
実際、SNSでは愛犬の病気の治療費の寄付をお願いしたり、クラウドファンディングで集めている飼い主さんの投稿を目にすることがあるのではないでしょうか。
寄付やクラウドファンディング等はリスクがあるためおすすめできませんが、動物病院によっては治療費を分割払いにしてくれたり、医療ローンを組むことができたり、そのほか銀行から治療費を借りることもできます。
愛犬が痛みや苦しみを少しでも軽減してあげるためにも、最低限必要な簡易的な治療や薬での緩和ケア(痛みからの解放など)は行ってあげましょう。
犬の治療費が借りられる銀行はこちら
【スルガ銀行】
「どうぶつ医療ローン:ヘルスケアプラン」
・利用限度額:10万~100万円(年利6.0~12.0%)
「どうぶつ医療ローン:高額医療プラン」
・利用限度額:100万~800万円(年利4.0~7.5%)
【イオン銀行】
「ペットローン:イオンアシストプラン」
・利用限度額:10万~700万円(年利3.8~8.8%)
愛犬にがんが発覚して、治療費の問題から治療しない選択をする前に、こうした銀行や動物病院に相談してみましょう。
飼い主さんが最初から諦めているケース
治療しない選択をするときの4つ目は、飼い主さんが最初から諦めている場合です。
犬ががんになるのは、老犬になってからが多いです。犬の平均寿命は14.76歳となっており、14歳をすぎて愛犬にがんが発覚したら「もう年だから…」と諦めて治療しない選択をしてしまうことも珍しくありません。
また、老犬では麻酔のリスクが高まることが知られていますが、それが逆に治療しない選択肢だけに絞ってしまっていると言えるでしょう。
確かに、体に負担のかかる治療を愛犬にさせる必要があるのかということは、答えのない永遠のテーマです。
しかし、がんが寛解もしくは完治する見込みがあり、尚且つ獣医師が全身麻酔をかけても大丈夫と判断しているなら、年齢がネックとなり治療しない選択をする前にかかりつけの獣医師とよく相談して決めるようにしてください。
実際に、16歳、17歳でも全身麻酔をかけて手術をしたり放射線治療をしている犬はたくさんおり、治療することで治療しない選択をするより余命を延ばせるのはもちろん、QRLの質を高めてあげることができることが多いです。
愛犬のがん治療をしないときに重要な5つのこと
愛犬のがんを治療しない選択をしたからと言って、まったく何もしないということは絶対にやめてください。
がんは体を蝕んでいき、進行するとそれに伴いさまざまな弊害や症状を引き起こします。
治療しない選択をしても、余命を少しでも穏やかに過ごしてもらえるようにすることが大切です。
いかに体を楽にしてあげるか
愛犬ががんになると、最初はいつも通り元気でも、徐々に痛みを抱えるようになったり、呼吸が苦しくなったりします。
痛みや息苦しさを抱えていると普段の生活の質が悪くなるのはもちろん、睡眠の質が悪くなり、免疫力や体力が低下して進行を速めてしまうことにもなるため、いかに体を楽にしてあげるかが重要となります。
体を楽にしてあげるためには、緩和ケアによって苦痛を軽減し、愛犬がそれまでと同じような生活を送れるように配慮してあげることが大切です。
早期に緩和ケアをすることによって、緩和ケアを後から始めた人と比べて余命が長かったという報告もあるくらい、緩和ケアは重要な役割を持ちます。
緩和ケアは生活の質を維持させることを目的とし、可能な限り生活の質を下げずに保つことに焦点を当ています。動物病院には緩和ケアの専門科があるところもあるため、受診してみましょう。
いかに気持ちを楽にしてあげるか
犬は、自分ががんであることをわかりません。そのため、がんになったと悩んだり落ち込んだりすることはありません。
しかし、体の違和感や痛み、飼い主さんの感情の変化を敏感に感じ取って不安になります。
がんが進行すると、思うように動けずトイレを失敗するようになったり、ベッドでお漏らしをしてしまったりといったことも珍しくはないのです。
そのときに、飼い主さんが怒ったり残念そうな空気を出せば、ますます愛犬は不安となるでしょう。
また、犬用のオムツなどもあり、お漏らしするからとオムツをつけてもいいのですが、犬によってはオムツを嫌がり、自尊心を傷つけることにもなるため、愛犬の性格を見て判断してください。
このように、緩和ケアで苦痛を軽減してあげるのはもちろん、飼い主さんの接し方も重要になってきます。
がん治療しない選択をした時の過ごし方
がん治療をしない選択をしても、緩和ケアをしていればそれだけでいいかというとそういうわけではありません。
普段の過ごし方としては、腫れ物に触るようにしたり、飼い主さんが泣いて過ごすのではなく、いつも通りの過ごし方をすることが何よりも大切なのです。
とは言え、いつも通りの過ごし方だけではダメなのも事実です。
痛みを和らげてあげるために、楽な姿勢を取れるように寝床や居場所を工夫してあげたり、さすってあげる、温めてあげるな、マッサージをしてあげるなどの時間を作ってあげる必要があります。
更に、緩和ケアを行っていても痛みを完全に取り除けるわけではないため、痛みを感じさせないために愛犬が楽しいことや喜ぶことをするのも大切な過ごし方です。
また、愛犬ががんと診断されたら、そのショックは大きく、余命はどれくらいなのだろう、どんながんなのだろうとそれにばかり気を取られてネットで調べまくってしまいがちですが、そんな過ごし方は絶対にNGですよ!
いかに好きなものを食べてもらうか
愛犬ががんになると、徐々に食欲が低下して食べたい気持ちがあっても食べられなくなります。
それは、緩和ケアをしていても避けられないこと。
余命僅かと獣医師から告げられている場合では、それまでは絶対に与えることのなかった人間の食べ物など、食べてくれるものを好きなだけ食べさせてあげましょう。
もちろん、食べなくなった場合にはまずは獣医師に相談することが大切で、犬が食べてはいけないネギ類やぶどう、チョコレートなどはNGです。
実際、余命宣告をされた愛犬のチワワは、獣医師から「何でも食べさせてあげてください」と言われ、からあげやプリンなど、とにかく食べてくれるものをあげていましたよ!
また、知人の愛犬もがんでしたが、好きなものを食べて元気を取り戻し、1週間の余命宣告をゆうに2年も超えてから旅立ったということもあります。
食べることはとても大切なことなので、食べられるうちに食べてもらいましょう。
余命宣告されていても最期まで諦めない
愛犬ががんと診断され、治療しない選択しかなかったとしても、最期まで諦めずに愛犬と一緒に闘ってあげましょう。
例え余命宣告をされていても、余命宣告はあくまでもがんで闘病した犬たちの平均余命から出された数字でしかなく、必ずしも愛犬が当てはまるわけではありません。
がんに良いとされるサプリメントを摂り入れたり、免疫力が上がる食べ物をあげたり、普段の過ごし方を続けるなど、できることはたくさんあります。
緩和ケアで動物病院を受診するだけでなく、不安なことやわからないことはどんどん獣医師に相談しましょう。
愛犬のがん治療しない選択をしても後悔が少なくなるように…
今回は、愛犬のがんを治療しない選択をするときのケースや治療しないときに重要な緩和ケアや過ごし方をご紹介しました。
飼い主さんがどんなに気をつけていても、がんになるときはなってしまうものです。
愛犬ががんになり、嫌でも治療しない選択をしなければいけないこともありますが、がんになったことや治療できないことを悔やむのではなく、目の前の愛犬が少しでも楽で穏やかに余命を過ごせるよう、緩和ケアをしながら後悔のない過ごし方をしてくださいね。