今回は愛犬のがんで悩む飼い主さんのために、獣医師に犬のがんの進行速度や治療法、なぜ悪性腫瘍ができるかなど、幅広く解説していただきました。
なぜ悪性腫瘍はできるのか
近年は、人間社会でも高齢化が進み、ペットの寿命も延びており高齢化が進んでいます。
高齢になれば肉体も衰え、病気やがんの発生も多くなっています。犬ががんになる割合は年々増加し、死因の第1位ががんとなっています。
がんとは悪性腫瘍の一部のことをいい、正式には悪性腫瘍という枠組みになります。
例えば、がんという名前がついていない「骨肉腫」「血管肉腫」なども悪性腫瘍になります。
悪性腫瘍には、胃がん、肺がん、白血病やリンパ腫など、体のどこにでも発生してしまうもので、進行状況によってさまざまな症状を引き起こし、体をむしばんでいきます。
犬の悪性腫瘍が発症するメカニズム
体の細胞は日々新しい細胞を作っていて、これを細胞分裂といいます。細胞分裂のときに起きる突然変異によりできた細胞が、がん細胞の元になります。
人間の健康な体でも、1日に約5000個のがん細胞ができているといわれています。
そのがん細胞を退治しているのが、免疫細胞といわれるリンパ球です。しかし、老齢化すると突然変異が積み重なりがん細胞がどんどん発生する一方で、免疫機能の低下も起こります。
そして退治しきれずに生き残り、塊に発生していくのが悪性腫瘍です。
犬の腫瘍の進行速度は速い?
腫瘍といっても、良性腫瘍と悪性腫瘍があります。良性悪性や、がんの種類は見た目では診断することはできません。
また良性だからと言って放置し、続けていいわけでもありません。
悪性腫瘍は早めに対処するべきですが、悪性腫瘍の中でも種類が多く進行度合いは様々です。一概に、腫瘍の進行度合いは語れないものです。
腫瘍を見つけたときの診断の大事さ
高齢になって体調を崩したときに、原因は何なのか?そして、治療方法を見つけていきます。
腫瘍の場合も同じですが、よく飼い主さんから聞く言葉「この年だから検査しても治らないんでしょ?」と検査不要説を唱えられます。
考え方や価値観は十人十色ですし、否定はしませんが、いろんな選択肢があることも忘れてはいけません。
検査診断の目的は、治療法を探すということでもありますが、今後の予測や方針を立てることだと思います。
腫瘍の正体がわからず、やみくもにステロイドや抗がん剤を使用し、飼い主さん自身も心の準備ができないまま過ごしていくのは、あまりよろしくないように思います。
この今後の予測に腫瘍の進行速度も含まれるため、やはり診断は大事だと考えられます。
腫瘍に対する治療方法
ここでは、外科的切除や化学療法を中心に腫瘍に対する治療方法を獣医師にご紹介していただきます。
外科的切除
発生した腫瘍を、外科手術で取り除くことです。
初期段階であれば、切除することによって完治することができることもあります。
術後の再発と転移の可能性を減らすためにマージン(確認できる腫瘍の大きさよりも広く見積もること)を取って切除すること、放射線治療や抗がん剤などの化学療法、なども併行して行う場合もあります。
化学療法(抗がん剤)
抗がん剤を投与して、がん細胞を退治してがんを小さくする治療法です。
外科手術をしたいけど大きすぎるときに小さくする目的、血液のがんなどで手術できない場合に選択されます。
しかし、抗がん剤はがん細胞だけでなく全身の正常な細胞にもダメージを与えてしまうために副作用が出ることがあります。
食欲や元気がなくなる、嘔吐や下痢などの消化器症状、白血球が減ってしまう骨髄抑制という症状が起こることがあります。
副作用に注意しながら、治療進めていきます。
放射線治療
腫瘍ができた部位に、放射線を当てることでがん細胞を殺し、腫瘍を小さくする治療法です。
放射線治療だけでは完治することが難しく、手術前に腫瘍を小さくしたり、手術後の再発予防、手術できない場合の治療法の一つとして選択されます。
治療には特殊な装置が必要であり、大学病院や設備が整った施設に限られます。
ピンポイントで放射線を照射することが難しく、正常な組織に副作用を起こす放射線障害という副作用を引き起こすこともあります。
治療には全身麻酔が必要であるため、全身状態が良好である子に行われることが多いです。
腫瘍の種類別|がんの進行速度
様々なタイプの悪性腫瘍があります。
皮膚にできるもの、おなかの中にできるもの、血液のがんなど、その中でも細分化されていきます。
診断の結果、行う治療に対してどれくらいの効果があって、どれくらい生きられるのかという生存期間中央値(平均日数)というものがわかります。
一般的な腫瘍について見ていきましょう。
犬の乳腺腫瘍
乳腺にできる腫瘍です。犬の良性と悪性の割合は半々といわれています。治療方法は、主に外科的に切除することです。
1㎝未満ではほぼ100%に近い割合で根治、1~3㎝では約80%、3㎝以上では60%、サイズが大きくなればなるほど根治は難しくなり転移している場合には治療しないこともあります。
肺に転移した場合、呼吸が苦しくなり酸素室から出ると生活できなくなることもあり安楽死も視野に入れることがあります。
肝臓に転移した場合は、もう少し緩やかな最期を迎えられるかもしれません。
生存期間中央値はステージによっても異なりますが、半年~4年程度といわれています。
犬の肥満細胞腫
肥満細胞という免疫に関わる細胞が腫瘍化したもので、主に皮膚に発生します。消化管や内臓に発生することもある悪性腫瘍です。
名前に「肥満」が含まれていますが、肥満の犬に起こる病気ではありません。皮膚の一部が盛り上がって赤くなったり、皮膚が抜けて気づくことがあります。
この肥満細胞にはヒスタミンという炎症物質がたくさん含まれていて、雑に扱うとショックを起こしてなくなることもあります。
犬の消化管肥満細胞腫の生存期間中央値は、約1~3か月未満と言われています。
近年では肥満細胞腫に効果がみられる内服治療薬が流通していることから、もう少し長くなっているかもしれません。
犬のリンパ腫
免疫を司るリンパ球という血液中の細胞の腫瘍で、血液のがんの一つです。
主にリンパ節が腫れます。発生する場所によって症状は様々で、消化器型や縦隔型、多中心型、皮膚型などという名前が付きます。
ひとことでリンパ腫と言っても様々なリンパ腫に分類されるため、生存期間中央値も様々で2~14ヵ月と幅があります。
早期発見早期治療によって寛解を見込める症例は多い印象です。
犬の血管肉腫
血管の内皮細胞が腫瘍化したものです。血管があるところなら、どこにでも発生する可能性がある悪性腫瘍です。
最も発生しやすい臓器は脾臓で、次いで肝臓と言われています。
被膜がなく脆いため破裂して出血しやすい、これと言って症状がないのも特徴です。
健康診断などで偶然見つかるということも少なくありません。
脾臓に発生した血管肉腫の生存期間中央値は、無治療で約1か月、脾臓摘出のみをした場合は約3か月、脾臓摘出後に化学療法などを行った場合は約9ヵ月が目安となっており、化学療法を併用したとしても1年後の生存率は10%以下ともいわれています。
皮膚の発生した血管肉腫は、完全に切除できた場合、脾臓血管肉腫よりも生存期間が長くなると言われています。
心臓に発生した血管肉腫の予後はさらに悪く、切除できたとしても1~4か月程度と言われています。
犬の骨肉腫
犬の骨の腫瘍で多いのが骨肉腫です。聞きなれない病名ですが、骨があるところならどこでも発生するといわています。
骨の原発性腫瘍のうち85%以上が骨肉腫と言われています。
腫瘍によって骨が破壊されて、痛みや発熱、跛行(歩行様態の異常)、骨自体が脆くなり突然骨折することもあります。
非常に高い転移性をもつ悪性腫瘍で、診断時には肺に転移していることも少なくない病気です。
犬の骨肉腫の予後は決して楽観視できず、ステージによっても差がありますが、断脚や化学療法を行った場合、約50%の症例で約1年の生存期間中央値であるとの報告があります。
リンパ節や肺に転移している場合はかなり短くなると予想されます。
緩和ケアの必要性について
がんが進行してしまい、がんに対する治療が難しくなった場合には、生活の質(QOL)を落とさずに犬が犬としての生活ができるように、症状に応じた緩和ケアを行います。
痛み、発熱、吐き気などに対して、鎮痛薬や解熱薬、制吐薬を使用したり介助も行います。
がん性疼痛(がんによる痛み)は一般的な鎮痛薬では抑えきれないことがあり、症状によっては麻薬性の鎮痛薬を使用することもあります。
がんの治療は副作用もあり犬にも負担があるのはもちろんのこと、飼い主さんにも負担が大きいものです。
がんの種類や全身状態によって、どの治療法が最適なのか、選択肢が変わってきます。
信頼できるなんでも相談できる動物病院に出会い、後悔なく自信をもってわが子をお見送りすることでペットロスも軽減することができます。
しっかりと相談して、治療の方針を決めていけるといいですね。