犬の口腔内メラノーマや眼球メラノーマ〔獣医師監修〕

Canine oral malignant melanoma

悪性腫瘍の中でも転移率が高いといわれているメラノーマですが、口腔内に発生した場合は手術での全摘出が困難であったり、食事を与えるのが難しくなったりと様々な障害を伴います。

今回は、犬のメラノーマに関しての検査や治療などの基本情報に加えて、食事方法や自宅ケアについてご紹介致します。

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犬の腫瘍「メラノーマ」とは?

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ここでは、犬のメラノーマに関しての基本的な情報や発生しやすい部位などをご紹介致します。

メラノサイトにできる腫瘍

メラノーマ(悪性黒色腫)とは、犬のメラニン色素を形成している細胞であるメラノサイトにできる腫瘍です。

メラノサイトは、犬の皮膚や粘膜に存在するメラニン産生細胞で、犬の場合は良性腫瘍のメラノーマと悪性腫瘍のメラノーマがあり、ある程度発生部位によって良性か悪性かを判断することができます。

また、メラノーマに関しては口腔内と目に発生するケースが多く、色素の濃い犬が多く発症しやすいと考えられています。

腫瘍の色が黒いのが特徴ですが、メラノーマであっても稀に黒色でないこともあります。

メラノーマの発生部位

良性メラノーマは、一般的に被毛がある場所(皮膚)に発生。

対して悪性メラノーマの場合は、犬の唇や眼球の上下を覆って角膜を保護している皮膚などの粘膜接合部、爪周辺部(爪下)、口腔内などに発生します。

口腔内メラノーマに関しては別途説明しますが、全摘出においては手術が困難になるケースが多いのが特徴です。

ただし、必ずしも良性と悪性の発生部位が分かれるわけではありませんので、メラノーマを疑うときは、必ず獣医師の診察を受けるようにしてください。

悪性メラノーマについて

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ここでは、悪性メラノーマの検査方法や一般的な治療方法についてご紹介致します。

治療に関しては、獣医師とよく話し合って決めていきましょう。

悪性メラノーマの検査方法

悪性メラノーマの検査は、最終的には腫瘍を摘出して組織の病理組織検査によって行われます。

組織の病理検査では、犬のメラノーマの悪性度や進行状態、転移や再発にとどまらず、犬が化学療法や何かしらの治療を行った際の効果や予後などの推測ができます。

そのことからメラノーマに関わらず、腫瘍を摘出した後は大抵の場合は病理検査を行います。

腫瘍によっては病変部の広がりを確認するために、摘出手術をする前にCT検査やMRI検査などの詳しい検査が必要になることがあります 。

悪性メラノーマの治療方法

悪性メラノーマでは、通常大きめに腫瘍を切除しますが、犬の口腔内に腫瘍ができてしまった場合は完全に切除しきれないこともあったり、肢の先端部にできてしまった場合は獣医師に断脚手術を勧められることもあります。

術後は抗がん剤治療や放射線治療を行うケースもありますが、転移する可能性が高いがんなので注意が必要です。

しかしながら、初期に発見して早期治療ができれば根治を目指した治療が可能な場合もあるので、病気の早期発見のために日ごろから愛犬の口腔内や目、肢先などのチェックも行っておくと良いでしょう。

悪性メラノーマの転移

悪性メラノーマは局所浸潤性が高く、また犬のがんの中でも転移率が高い腫瘍といわれております。

がんが発生した部位周辺に広がっていき、リンパ節や肺など多臓器に転移しやすいと考えられていますので、犬のがんの中でも悪性度が高いといわれています。

その他、老犬の場合は目に発生したメラノーマに関しては比較的大きくなりにくいのが特徴です。

口腔内メラノーマと眼球メラノーマ

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ここでは、メラノーマの中でも多くみられる口腔内メラノーマと眼球メラノーマについてご紹介致します。

犬の口腔内に発生するメラノーマ

犬の口腔内に発生する主ながんは3種類あるといわれており、代表的なものがメラノーマ。

その他に、扁平上皮癌と線維肉腫があります。

犬の口腔内に腫瘍ができてしまうと、唾液が多くなる、口臭がきつくなる、出血などの症状が生じて、腫瘍が大きくなってしまった場合は食欲不振や(※1)嚥下困難などを中心に様々な症状がみられます。

口腔内の腫瘍の場合、残念ながら手術で完全に摘出することができないケースが多いのが特徴です。

(※1)嚥下:口から入った食事を喉の奥へと飲み込んで、さらに食道から胃へと送るという一連の流れ

犬の眼球に発生するメラノーマ

眼球に発生するメラノーマは、猫では転移率が高いのに対し、犬の場合は転移の確率は僅か2%以下であるといわれています。

腫瘍は黒色で、若い犬の場合は短期間で腫瘍が大きくなりますが、比較的年齢を重ねた8才以降の犬の場合はそれほど大きくならないケースが多い腫瘍です 。

なお、犬の眼球に発生するメラノーマの転移確率に関しては、文献(参照データ)によって差が生じることがあります。

口腔内メラノーマの緩和ケア方法

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メラノーマだけでなく、犬が悪性腫瘍を発症すると緩和ケアが必要になるケースが多くあります。

がん性の疼痛の緩和ケア

口腔内メラノーマを中心に腫瘍を全摘出できないような場合、どうしても愛犬のQOLを維持するために緩和ケアが必要になります。

メラノーマによる痛みの緩和ケアは犬の状況によって異なりますが、一般的には必要に応じて「非ステロイド系の抗炎症薬」が使用され、さらに激しい痛みが生じている可能性がある場合や非ステロイド系の抗炎症薬では痛みの緩和が十分でない場合、口腔内腫瘍によって犬の口からの薬投与が困難な場合はオピオイド製剤が使用されることがあります。

また、メラノーマをはじめとした犬の口腔内のがんにおける出血や腫瘍の腫れがある場合、(緩和)放射線治療で症状を軽減することができるケースも多く、メラノーマに関しては多かれ少なかれ腫瘍を小さくする効果も期待できるようです。

がん性の疼痛を中心とする犬の緩和ケアに関しては、犬の状況や痛みの程度(推測)、腫瘍の状況などによって大きく異なるので、緩和ケアにおける治療のリスクなども踏まえた上でしっかりと獣医師と話し合った上で決めていきましょう。

口腔内にメラノーマができた場合の食事方法

口腔内にメラノーマができてしまった場合は体重減少がみられることが多く、食事の方法に悩む飼い主さんが多くいます。

悪性腫瘍によって、ただでさえ食事の消化吸収能力が妨げられますが、それに加えて口に腫瘍がある場合は物理的に犬が食事を摂れない(摂りにくい)状況に追い込まれます。

そのような場合、少量で栄養補給できる高栄養缶などの流動食を喉から流し込む方法が考えられますが、動物病院で栄養チューブの装着を早期段階で勧められることもあります。

また、数年前にアメリカで犬用食欲増進剤(エンタイス)が販売され、日本国内の動物病院でも取り扱っているところもあるようですので、物理的に食事が摂れる犬の場合は副作用を含め獣医師に食欲増進剤に関して相談してみると良いでしょう。

口腔内メラノーマの自宅ケア

薬の投与を中心とした緩和ケアは動物病院でお願いできますが、口腔内にメラノーマがある場合は自宅でのケアがとても大切になります。

犬の状況によってケア方法は異なりますが、口の中が汚れしまっていたり乾燥していたりすると粘膜感染を進行させやすくなります。

そのため、ガーゼに水を含ませて犬の口の中が潤うよう定期的なケアを行うことが大切です。

また、食後も口の中を清潔に保つために水を与えるなど、愛犬の口腔内ケアをしっかりと行いましょう。

口腔内ケアに関しては、腫瘍ができている部位や状況によってケア方法が異なることがあるので、愛犬に合った適切なケア方法を必ず獣医師に確認してから行ってください。