ストレスは人においても体にマイナスに働きますが、言葉で自身の感情を説明できない犬の場合は特に注意してあげなければいけません。
今回は、犬のストレスに関して身体的な変化や原因、ストレスサインについてご紹介致します。
ストレスとは?
ストレスには精神的なものと肉体的なものがありますが、精神的ストレスが肉体的ストレスを併発させたり肉体的ストレスが精神的ストレスを併発させることがあるので、いずれの場合も連続的(継続的)に犬にストレスがかからないよう注意が必要です。
ストレスの種類
犬の精神的ストレスの原因は、一例として環境の変化や飼い主との関係性、運動不足などが挙げられます。
それに対して肉体的ストレスは、病気や老衰、過度な運動や睡眠不足などが原因で引き起こされやすいのが特徴です。
体のメカニズム
犬がストレスを感じたとき、体の内部ではアドレナリンやコルチゾールを中心に自身を守るためのホルモンが分泌されます。
このようなホルモンに関しては犬の生命維持に必要不可欠(有効に働く場合がある)であっても、過度に分泌されると犬の健康に被害を及ぼす要因になりやすいのが特徴です。
アドレナリン
アドレナリンとは、犬の体や脳を緊張、または興奮させたりする働きのあるホルモンの一種で、血圧上昇を引き起こします。
通常健康体の犬であれば、それ程重度の身体的症状を引き起こすとは考えにくいものの、心臓発作要素がある老犬や心臓病の犬(心臓が衰弱している犬)に関しては特に注意が必要です。
コルチゾール
コルチゾールに関しては、犬がストレスを受けたときにストレスに対抗するためのエネルギー源となるホルモンとして知られています。
コルチゾールには、血糖値を上昇させるなどの働きがありますが、血糖値上昇のみならず免疫系の機能も制御させるため、継続的なストレスには細心の注意が必要です。
免疫力が低下すると、体が様々な病気を引き起こしやすい(様々な病気と闘いにくい)状態になります。
免疫力と犬のがん
特に悪性腫瘍に関しては内的要因として免疫力の低下が挙げられるので、継続的なストレスによるコルチゾールの過度なホルモン分泌には十分注意が必要です。
悪性腫瘍について考える上では体にがん細胞が現れたとき、このがん細胞と闘う(がん細胞を発見したり処理する)ために免疫担当細胞が機能します。
そのため、ストレスによってこの細胞が適切に機能しないことが、がんの発症リスクを高める要因にもなり得ます。
ストレスの原因
人の場合は自分の社会的な地位や恥、プライドなどがストレス要因になりやすいのに対して、犬の場合は毎日の食事を中心に自身の生命維持のために必要不可欠なものに対してリスクが生じるとき、ストレスを感じやすいのが特徴です。
環境の変化によるストレス
飼い主や家族構成が変わったり引っ越しによって住処が変わる、同居犬が亡くなったり新たな同居犬が増えるなどの変化はもちろん、犬によっては飼い主が気付かないような些細な環境の変化にもストレスを感じることがあります。
多少のストレスや環境の変化に関しては犬にとっても重要であり、全くストレスのない環境というのは逆に現実的ではありませんが、注意したいのは継続的なストレスと短期間であってもトラウマに発展するような重度のストレスです。
家族が変わった場合や引っ越しをした場合など、大きな変化が生じた際は愛犬の様子を普段以上によく観察。
ストレス緩和のために、優しい声かけや犬との適切なコミュニケーションの構築などに注意を払う必要があります。
飼い主との関係性によるストレス
歴史的に群れで生活してきた背景から、群れの一員(特にパックリーダー的存在)との関係性に対して犬がストレスを感じやすいのが特徴です。
愛犬との十分なコミュニケーションが取れているか、叱るしつけをしていないか、犬との関係性が適切であるか、日々飼い主自身が見直す努力をすることが大切です。
運動量によって生じるストレス
運動不足は犬にとってのストレス要因になることは有名ですが、過度な運動も身体的ストレスだけでなく精神的ストレスにつながります。
一般的には散歩については小型犬30分~、中型犬30~1時間、大型犬1時間~というような認識が広まっていますが、犬種や個体差、生活環境によって適切な運動量には大きな差が生じます。
一般的な目安はあくまで目安として考え、愛犬の疲れ度合いや問題行動の現れなどを細かく観察しながら、その犬に適した運動量を見極めることが何より大切です。
運動量を考える上で一緒に考えたいのが犬の睡眠の質と人の睡眠の質の違いです。
犬においては人とは異なり、浅い眠りであるレム睡眠(寝ていても脳が活動している状態)が約80%程度だと考えられています。
睡眠の質に関しても、犬の年齢や生活環境、個体によって差が生じます。
いずれにせよ人と比較して、犬は遥かに長い睡眠時間を確保する必要があることには変わりありませんので、適度な運動と十分な睡眠がストレス緩和には欠かせません。
病気や老衰によるストレス
病気や老衰によって体に痛みや違和感、炎症など生じている場合は、何より獣医師に早期段階で相談することが大切です。
病気の治療に合わせて、犬が生活しやすい環境(身体的ストレスがかかりにくい環境)を整えてあげましょう。
見逃したくないストレスサイン
犬は言葉で感情を表現することができません。
その上、人と比較するとストレス発散方法の範囲が非常に狭く、問題行動や身体の不調に表れやすいのが特徴です。
人であれば、友人に話したり趣味を見つけるなど様々なストレス発散方法がありますが、犬においては発散方法が飼い主の管理下におかれるものに限定されやすいので、しっかりと愛犬の立場で対策を練ってあげることが大切です。
よく犬にみられるストレスサインとしては、食欲の低下や脱毛、下痢、極端な睡眠時間の低下、運動量の低下などを中心とした身体や行動の変化です。
それに加えて唸る、吠える、噛む、阻喪するなどの問題行動が生じることが多くあります。
問題行動が見られる場合、犬においてはストレスの発散方法が極端に限られてしまうことをしっかりと理解した上で、まずは些細な行動変化に気づいてあげることが大切です。
その上で、ストレス緩和対策を行い、犬に重度の精神的問題がある場合は、人でいう心療内科のような精神医学を得意とする獣医師に相談することも検討しましょう。
愛犬のストレス対策について考えよう!
今回は、犬のストレスに関してご紹介致しましたが、ストレスによって発生するホルモン分泌に関しては通常適切な量(または頻度)であれば、犬の健康維持においても有効に働きます。
例えば、散歩ルートを変更してみる、普段とは違う場所に外出するなど、その犬にとっての楽しみに関係するストレス(重圧)が適度に生活に加わるような場合は、ストレスはポジティブな要素として働きます。
しかし、たとえ犬にとっての楽しみであったとしても、そのような重圧が継続的に加わることは好ましくありません。
犬にとっては、安心できる生活環境(自宅)での十分な精神的・身体的休憩場所や時間が確保された上で、適度な良いストレスが加わるような生活を心がけることが健康維持において大切なのではないでしょうか。
参考文献:
・動物臨床医学研究所 山根義久,イヌ+ネコ家庭動物の医学大百科,パイインタ-ナショナル,2012.
・鷲巣月美,ペットのがん百科―診断・治療からターミナルケアまで,三省堂,2011.