愛犬の下痢や軟便を治す方法や注意点〔管理栄養士解説〕

Diet for dogs prone to diarrhea

食事管理で犬の腸の健康維持を行うことは、免疫力を維持するために非常に重要なポイントとなり、様々な病気予防に効果的です。

今回は、軟便や下痢をしやすい犬の食事管理のポイントについて簡単にご紹介いたします。

saki mochizuki

腸の健康維持の重要性

brown Chihuahua

犬だけでなく人にも同じことがいえますが、病気を引き寄せにくい健康な体づくりをするためには腸の健康維持は食事管理で重要視したいポイントです。

犬の免疫細胞と腸管

先天的(生まれながらの)理由で軟便や下痢を引き起こしやすい犬も多くいますが、犬の体全体の約60%~70%程度(犬によって個体差あり)の免疫細胞が腸管に集中しています。

そのため、免疫力を維持(向上)して悪性腫瘍やその他の病気が発症しにくい体づくりをするためには、腸の健康維持に配慮することが大切です。

不健康な腸のリスク

愛犬にどんなに良質な食事を与えていても、腸が不健康だと体に必要な栄養素を効率よく吸収することができないので、日々愛犬の便の状態を確認しながら食事管理を行いましょう。

腸の健康は、様々な病気を引き寄せないためにも大切です。

軟便や下痢の原因と対処法

toy poodle in the car

犬に多い軟便や下痢ですが、まずは原因を中心にご紹介いたします。

愛犬の便の状態が好ましくない場合は、獣医師に相談して適切な検査を受けましょう。

軟便や下痢とは?

軟便や下痢は、便に含まれる水分量が過剰に上がった状態を指し、何かしらの原因で腸の働きが異常になっていることで犬の便中の水分量が上がります。

食事で食べ物を摂取すると犬の腸では体内で食物を移動するために蠕動運動が生じますが、この運動が通常より活発になってしまうと軟便や下痢になります。

また、食事で摂取した水分が上手く体に吸収されずに便として排泄されたり(直腸から正常に水分や電解質の再吸収が行われない)、過剰な水分分泌が腸から生じたとき(直腸内への水分分泌量が増える)などに軟便や下痢が引き起こされます。

明確な定義はないものの、ある程度便の形状が保たれていれば軟便液状の便を(水溶性)下痢と呼びます。

愛犬が下痢や軟便になったら動物病院で検査

犬の軟便や下痢が症状として引き起こされる病気は種類が多く、一概にこの病気であると特定することができません。

そのため何より大切なことは、動物病院で適切な検査をして病気が原因であるならば病気の根本的な治療を行うことです。

軟便や下痢が引き起こされやすい病気の一例としては、急性の下痢であれば病原性細菌やウイルス感染症、消化器内の寄生虫など。

慢性的な下痢の場合は、腸や胃などの消化器官の腫瘍や慢性特発性腸疾患、食物過敏症(食物アレルギー)、膵炎をはじめとする膵外分泌疾患などが原因として考えられます。

病気以外の軟便や下痢の原因

しかしながら、犬の軟便や下痢に関しては全ての原因が病気というわけではありません

水分摂取量が適切でなかったり、季節的な温度変化、ストレス、生まれ持った体の性質が原因で軟便や下痢を引き起こしやすい犬もいるので、食事管理だけでなく生活環境の見直しをすることも大切です。

軟便や下痢の犬の食事管理のポイント

Chihuahua

犬の軟便や下痢に関しては必ず原因に応じた食事管理をしなければいけませんが、ここでは病気が原因でない場合の一般的な体質改善に向けた食事管理のポイントについてご紹介いたします。

消化しやすいドッグフードか見直す

まずは、現在与えているドッグフードや手作りご飯、食べ物が犬の消化機能に適したものであるか見直すことが大切です。

頻繁に犬が軟便や下痢をする場合や食事内容を変更したときに急性の下痢症状が引き起こされた場合は、動物病院でアレルギー検査をすることをおすすめします。

軟便や下痢をしやすい犬の場合は、炭水化物(米類、トウモロコシ、小麦などの穀物)が主原料になっていない食事を与えるのは大前提ですが、タンパク質が主成分であってもドッグフード内の植物性タンパク質が多すぎないか(トウモロコシや米類など)を確認しましょう。

消化吸収性に優れた動物性たんぱく質を使用したドッグフードなど、腸の健康に役立つ食事管理を心がける必要があります。

主原料は良質な動物性たんぱく質

犬は生肉(または加熱肉)の消化を得意とするといわれていますが、これは犬の食生活の歴史的背景だけが理由ではなく、腸の長さが短いため消化吸収に他の動物ほど時間をかけることができないことも理由としてあげられます。

そのほかにも、歯の構造の違いや唾液腺の違い(アミラーゼの分泌の有無)などの体の構造の違い、必要栄養素の違いなどが理由として考えられます。

犬は狩りをしていた時代から野生動物の胃の内部に残っている草や穀物を栄養源にしていたと考えられていますが、いずれにせよこれらに関しては犬が摂取する食事全体のごく一部です。

犬の体において、動物性たんぱく質の重要性は否定できません。

また、軟便や下痢を繰り返す犬には、消化器に負担がかからないよう脂肪分の少ない動物肉(牛であればヒレ部分、鶏であればササミや胸部分、鹿肉や馬肉など)を使用するなど、消化吸収しやすい良質な食材に配慮することが大切です。

適切な食物繊維を食事に含める

犬の食事に関しての動物性たんぱく質の重要性をご紹介いたしましたが、肉だけを与えていれば犬の体に必要な栄養素がすべて補われるというわけではありません。

軟便や下痢を繰り返す犬の腸の健康維持に大切なのが、適切な食物繊維が食事に含まれているか否かです。

普段の食事管理では異なる種類の食物繊維をバランスよく摂取することが大切ではありますが、軟便や下痢を引き起こしている犬の場合、大腸性の下痢か小腸性の下痢かによっても多少異なるものの、不溶性食物繊維は制限しましょう。

食事には、水溶性食物繊維を取り入れます。

水溶性食物繊維は、便中の余分な水分を吸収する効果が期待できることから便を固くするために有効です。

また、腸内に存在する細菌を吸着して下痢の症状を緩和させる役割も補うと考えられています。

水溶性食物繊維は、キャベツやイモ類などの野菜類(ペクチン)や海藻類(アルギン酸)などに多く含まれており、軟便や下痢のときに犬に与えるのは極力避けたい不溶性食物繊維に関しては、米や小麦などの穀物に多く含まれています

ただし、水溶性食物繊維であっても過剰に与えるのは禁物ですので、食物繊維は食事のバランスを考えて取り入れましょう。

サプリメントを与える場合

病気が原因でなく慢性的に下痢をする場合は、サプリメントで腸の健康維持を行うのも効果的です。

特に老犬の場合、加齢に伴って善玉菌が減少しやすくなるので注意しましょう。

胃腸ケアを目的とした犬用サプリメントでよく使用されている成分は、消化酵素の分泌を促すための酵素、善玉菌を増やす(活性化する)ための乳酸菌、酪酸菌、納豆菌、フラクトオリゴ糖など。

悪玉菌を制御するための(マンナン)オリゴ糖などです。

サプリメントの選び方のポイントとしては、胃腸ケア成分が1つに偏らずにバランスよく含まれていること。

継続して犬に与えるのであれば化学合成添加物が含まれていないものを選ぶことをおすすめします。

下痢や軟便が多い犬が食事以外で配慮したいこと

smiling shiba inu

ここでは、軟便を繰り返す犬の食事内容以外の配慮についてご紹介いたします。

繰り返しになりますが、病気が原因で下痢になってしまった場合は必ず獣医師の指示に従ってください。

下痢や軟便が多い犬の食事の与え方

重度の下痢で犬の便中の水分量がとても多い場合、動物病院での薬の処方に合わせて食事の与え方に注意が必要です。

獣医師によって判断は異なりますが、一般的には数回(1日)絶食させて様子を見るよう指示がでます。

免疫力が低下していない健康体の犬であれば、消化器を刺激しないよう24時間絶食

12時間絶水することがあります。

しかしながら、犬の健康状態によっては一時的であっても絶食や絶水が危険な場合があるので、かかりつけの獣医師の判断に従いましょう。

また、絶食後に食事を与える際、ドッグフードであればふやかすなどして消化吸収しやすい形状にした上で一日数回に分けて少量ずつ与えることが大切です。

胃が空の状態ですので、徐々に消化器官に慣らしていきましょう。

下痢や軟便が多い犬は脱水症状に気を付ける

軟便や下痢を生じている場合は、過剰な水分が便として体外に排出されてしまうため脱水症状に気をつける必要があります。

子犬や免疫力が極度に低下している犬の場合、短時間で命を奪われることがあるので気をつけましょう。

脱水症状が生じている場合は、動物病院で脱水症状改善のために水分や電解質を体に補充する処置(経口・または非経口の補液を使用)が行われることがあります。

その他、基本的に健康体の犬であれば体に必要な水分は自ら摂取しますが、軟便・下痢の犬に限らず新鮮な水は常に飲めるよう環境を整えておきましょう。

下痢や軟便を繰り返す場合はストレス要因がないか見直す

犬は非常に繊細な生き物ですので、飼い主が気づかないような些細な変化に反応してストレスをため込みます。

そのため、病気ではないのに軟便や下痢を繰り返す犬の場合はストレス要因がないかを見直しましょう。

犬のストレス要因になりやすいものは、飼い主との不適切な関係性や居住場所、家族(同居犬含む)を中心とした環境の変化、運動不足や過度な運動などです。

日頃から愛犬の仕草や行動の変化をしっかりと観察して、早い段階でSOSに気づいてあげることが大切です。

愛犬の軟便や下痢は早めの対策を

急性的な下痢の場合は、早めに原因を突き止めて対処しないと下痢が習慣化しやすくなります。

慢性化すればするほど治りにくくなるので、便の状態は都度細かく確認して早期発見を心がけましょう。

軟便や下痢が多い犬の食事管理注意点

Miniature dachshund

ここでご紹介させていただいた食事管理のポイントに関しては、病気が原因でないことが前提の内容です。

万が一消化器系の疾患がある犬の場合、それぞれの病気に適した食事管理が必要となるので気をつけましょう。

一例として、胃炎などが生じている場合は胃の負担を軽減させるために低脂肪食を利用。

膵炎の場合は膵外分泌を抑えるために低たんぱく質・低脂肪の食事が推奨されることがあります。

病気が原因で犬が軟便や下痢をする場合は、必ず獣医師に食事管理においての注意点を確認しておきましょう。

その他、一言で犬といってもそれぞれ健康状態消化吸収能力適した食事などは異なります。

食事の見直しをする場合は、一般的な見解はあくまで参考として愛犬の便の状態を日々確認。

便が安定するまでに長期間かかることがありますが、時間をかけてでも愛犬の健康状態や体に適した食事の見極めをすることが大切です。

さらに詳しく知りたい方は、【犬と人の消化吸収能力の違いなど】も合わせてご確認ください。


参考文献:
阿部又信,臨床栄養学―獣医学教育モデル・コア・カリキュラム,インターズー,2015.
阿部又信,動物看護のための小動物栄養学 改訂版 日本小動物獣医師会,ファームプレス,2003.
動物臨床医学研究所 山根義久,イヌ+ネコ家庭動物の医学大百科,パイインタ-ナショナル,2012.
田中茂男,犬の医学,時事通信社,2011.