犬のがんの緩和ケア|薬や治療法など〔獣医師解説〕

How to treat dog cancer

がんを発症した犬の場合、痛みを中心に緩和ケアにおける治療がとても大切になるケースがあります。

今回は、犬の緩和ケアについて、薬を中心とした専門的内容を獣医師に幅広く解説していただきました。

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犬のがんの緩和ケアに効果的な薬は?

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がんの緩和ケアに使用される薬の概要

犬のがんの緩和ケア治療に使用される薬には鎮痛薬、抗炎症薬、局所麻酔薬などがあります。

鎮痛薬は痛みを減らす効果があり、抗炎症薬は犬の痛みの原因となる炎症を抑えることで間接的に痛みを減らす効果があります。

がんのペインコントロールに使用される薬としては鎮痛薬、抗炎症薬などが一般的で、局所麻酔薬は神経を麻酔することで痛みを感じなくさせるブロック麻酔という治療手法で用いられます。

がんの緩和ケア治療に有効な鎮痛薬

犬の鎮痛薬は麻薬性鎮痛薬、非麻薬性鎮痛薬、解熱鎮痛薬に分けられます。

麻薬性鎮痛薬はモルヒネフェンタニルなどが代表的です。

犬の麻薬性鎮痛薬は習慣性を伴う強力な鎮痛作用を持ち、脳や神経に作用。病巣から脳に向かう痛みの信号を止めます。

非麻薬性鎮痛薬はブトルファノールトラマドールなどが代表的です。

これらは習慣性を持ちませんが、麻薬性鎮痛薬と比較すると軽度の鎮痛効果を持つと報告されています。

麻薬性鎮痛薬と同じ方法で痛みを減らす為、犬に投与する際、併用することでお互いの作用を弱くしてしまう場合があります。

がんの緩和ケアで使用されるオピオイド

麻薬性鎮痛薬と非麻薬性鎮痛薬は、オピオイドと呼ばれる薬の種類です。

オピオイドはがんの緩和治療における重要な薬ですが、人間においてオピオイドは重度の呼吸抑制、薬物耐性(長く使用することで作用が弱まること)があると言われています。

しかしながら、犬の場合はオピオイドに対する呼吸抑制の感受性が人ほど敏感ではなく、使用する期間も短い為、これらの副作用はあまり問題にはならなと報告されています。

がんの緩和ケアで使用される解熱性鎮痛薬

解熱性鎮痛薬は、NSAIDs(エヌセイド)と呼ばれる非ステロイド系抗炎症薬の中で鎮痛効果を持つものを指します。

犬の解熱性鎮痛薬はケトプロフェンアスピリンなどが代表的で、がんの痛みの原因物質が生成されることを防ぎます。

犬の解熱性鎮痛薬もオピオイドと同様にがんの緩和ケアに有効ですが、種類によっては胃潰瘍、血液凝固阻害(血が固まらない)などの副作用がでる場合があります。

低頻度ですが腎臓に対する副作用を持つとする報告があるため、がん以外に腎疾患を持つ犬に投与する際には注意が必要です。

がんの緩和ケアで使用される抗炎症薬

抗炎症薬は、NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)とステロイドに分けられます。

NSAIDsは炎症の原因物質が生成されることを防ぎます。

解熱性鎮痛薬と同様に胃潰瘍、血液凝固阻害、腎障害などの副作用があります。

また、NSAIDsには抗腫瘍効果があり、骨肉腫、乳腺癌、口腔内メラノーマなどのcox-2と呼ばれる酵素を多く持つ様々な犬の腫瘍に効果的である可能性があると述べられています。

ステロイドはプレドニゾロン、デキサメタゾンなどが代表的であり、強力な抗炎症作用を持ちます。

犬に投与した際、免疫抑制や医原性クッシング症候群などの重大な副作用を引き起こす場合があるので、獣医師に指示されている量を適切に与えることが重要。

またNSAIDsとステロイドの併用は重大な副作用を引き起こす可能性が高く、併用は禁忌とされています。

犬のがんの緩和ケアに使用される薬のタイプは?

がんの緩和ケアの治療で使用される薬の投与方法

German shepherd with ball on floor and cat on sofa in living room

犬のがんの緩和ケアに用いられる薬にはいくつかの投与方法があります。

薬を口から与える経口投与、皮ふから吸収させる経皮投与、注射などにより体内に投与する治療方法などがあります。

がんの緩和ケアにおける経口投与とパッチの使用方法

経口投与は薬が比較的早く、犬のがんの痛みに効果を現します。

経皮投与には犬の皮膚に直接薬を塗布するほか、パッチと呼ばれるシールを皮膚に貼る方法もあります。

パッチによる経皮投与は薬剤が長期間作用する特徴があり、長期間薬を作用させるためパッチには多くの量の薬が含まれており適切な使用が重要になります。

パッチを温めると薬剤の過剰投与につながり危険です。犬がパッチをつけた状態での入浴等も避けて下さい。

がんの緩和ケアにおける注射の種類

注射による投与には静脈内投与筋肉内投与などがあります。

どちらの投与も薬がすぐに効果を表しますが、注射による治療は動物病院において獣医師による処置として行われます。

たとえ同一の薬であっても投与する方法が異なる場合、混同して使用することはできません。

がんの緩和ケアに使われる薬は強力な効果を持つものが多いのが特徴です。

犬に投与する場合、必ず獣医師に指示された量を正しい時間に投与するようにして下さい。

自己判断で量を増減すると大変危険ですので、獣医師の指示で薬を与えても犬が痛みを感じている、効果が感じられないような場合は再度獣医師に治療の相談をお願いします。

犬のがんの急性痛・慢性痛について

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犬のがんの急性痛・慢性痛

がんによる痛みには急性痛と慢性痛の二種類があります。急性痛は腫瘍が急激に発生したとき、膵炎などの劇的な症状が出たとき、手術を行った直後の犬などに発生します。

慢性通は術後の経過、がんが長期化したときなどに発生します。

痛みの評価方法として、急性痛ではレベル4を最大の痛みとして評価するペインスケールが、慢性通では痛みの判別のためのチェックポイントが報告されています(動物の痛み研究会)。

これらの評価は飼い主さんでも簡単に行うことができ、獣医師に犬の痛みを正しく伝え適切な治療をするために効果的です。

急性痛のペインスケール(一例)

  • レベル1:ゲージから出ようとしない、尾が垂れている、患部を舐めたり噛んだりして気にする、などの行動が見られます。
  • レベル2:耳が垂れている、食欲の低下、自分から動かない、痛いところをかばう、などの行動が見られます。
  • レベル3:体が震えている、攻撃的になる、横にならない、間欠的に鳴く・唸る、体を触ると怒る、などの行動が見られます。
  • レベル4:食欲が完全になくなる、ずっと鳴く・唸る、なきわめく、眠らなくなる、全身が硬直するなどの行動が見られます。

慢性痛のチェックポイント(一例)

  • 散歩や遊び、ソファーなどの上り下りなどの運動を嫌がるようになった
  • 立ち上がるときにつらそうになった
  • 尾を下げている時間が増えた
  • 寝ている時間が増えた、減った
  • 足を引きずるようになった

犬のがんの痛みに関して(がんの痛みの評価)

犬のがんの痛みについては明らかにされていないことが多いのが特徴です。

各腫瘍における痛みの程度については未だ十分な研究がなされていません。

消化器、泌尿器、口腔・鼻腔、皮膚、乳腺、骨、中枢神経系における腫瘍においては痛みがあると言われており、がんの緩和ケアにおいて重要になるのは、犬が感じている痛みを評価することになります。

実は動物病院では犬が我慢してしまうことから、痛みを正しく評価できない場合があります。

獣医師は手術などの治療を中心に犬にとってひどいことをしますし、飼い主さんとも離ればなれになってしまいます。

そんな恐怖心が強まる状況下では、犬は痛みを頑張って隠してしまうのです。

犬にとって飼い主さんは信頼できるパートナーですので、家で飼い主さんと一緒にいるとき、犬は自分がどれくらい痛いのかをしぐさや声で表してくれるかもしれません。

犬の痛みを一番正しく評価できるのは飼い主さんですので、急性痛、慢性痛の評価方法で飼い主さんが痛みを評価することが大切。

その情報から獣医師が適切な処置を行うことが痛みの緩和ケアに最も有効と言えるでしょう。

ペインコントロールに有効なその他の治療法

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犬のがんの緩和ケアに有効な補助的な治療法には身体リハビリテーション、サプリメントなどが挙げられます。

これらの補助療法は鎮痛薬、抗炎症薬などの治療法と併用することで、より効果的なものになります。

また、腫瘍の種類によっては大変危険な状態になる補助療法の組み合わせもあります。

例えば、肥満細胞腫などは腫瘍部を物理的に刺激することで、犬に劇的な症状が発生します。補助療法を行う場合は、必ず獣医師に相談の上行ってください。

・身体リハビリテーション|運動療法、物理療法などがあり、運動療法は運動により血流、リンパの流れを改善します。

人の場合、NSAIDsと同等の鎮痛作用があると報告されています。

物理療法には温熱療法冷却療法などが含まれます。

温熱療法は運動療法と同じく、犬の血流、リンパの流れを良くすることで鎮痛作用をもたらします。

冷却療法は急性疼痛の緩和に有効だという報告があります。

・サプリメント|ω-3脂肪酸、グルコサミン・コンドロイチンなどが含まれます。

ω-3脂肪酸のうち「エイコサペンタエン酸(EPA)」と「ドコサヘキサエン酸(DHA)」は穏やかな鎮痛作用を持ち、慢性痛の補助的治療に使用できると報告されています。

その他のω-3脂肪酸には鎮痛作用はないため注意が必要です。

グルコサミン・コンドロイチンも同様に穏やかな鎮痛作用を持ち、慢性痛の補助療法として使用できる可能性があります。

しかし、これらの物質の軟骨に対する保護効果については科学的に十分な根拠はありません。