愛犬に手作りご飯を作る方が増えてきましたが、作るときは犬に必要な栄養素を考えながら食材選びをする必要があります。
今回は、犬の手作りご飯に必要な必須栄養素、ミネラルについてご紹介致します。
犬に必要な栄養素の欠乏症と中毒
犬に必要な栄養素は、たんぱく質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラルの5つ(5大栄養素)であり、これらに水を加えて6大栄養素と呼ぶこともあります。
手作りご飯やドッグフードでは、これら栄養素がある程度犬の体に適したバランスで配合されている必要があります。
特定の栄養素が極端に不足すると、欠乏症として体に何かしらの症状が引き起こされることがあります。
また、特定の栄養素が極端に過剰に含まれる食事によって、中毒として何かしらの症状が生じることがあります。
そのため、愛犬の健康維持のために作る手作りご飯では、必要栄養素や食材に関する基礎知識が最低限必要になります。
愛犬にも質の高い食事を、と愛情を込めて作った手作りご飯のせいで愛犬の体調が悪くなるのでは意味がありませんので、基礎知識は身につけておきましょう。
犬に必要なミネラルとは?
ミネラルは、野菜などの食物内に存在する無機質(酸素や炭素、水素、窒素以外の物質)であり、犬の体の約4~5%がミネラルです。
ミネラルの種類に関しては、全体で40種類程度あるものの、犬の場合はそのうちの18種類以上が必須栄養素とされています。
※必須栄養素=食物(食事)から摂取する必要がある栄養素
犬が食事から摂取する必要があるミネラル
犬が食事から摂取する必要があるミネラルは大きく分けて、主要ミネラルと微量ミネラルに分類され、18種類以上が食事からの摂取で必要とされます。
特に、微量ミネラルは犬にとって必要不可欠な栄養素となるので、手作りご飯やトッピングご飯を作るときは念頭に置いておきましょう。
- 主要ミネラル(7種類)
ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、マグネシウム、イオウ、塩素 - 微量ミネラル(11種類)
鉄、亜鉛、ヨウ素、銅、セレン、マンガン、コバルト、モリブデン、クロム、ホウ素、フッ素
主要ミネラル(7種類)犬の体内での働き一例
- ナトリウム
ナトリウムとクロール(塩素)は、犬の体内に存在する水分バランスや細胞外液の浸透圧維持、神経伝達や胃酸を再生するために必要不可欠な栄養素です。 - カリウム
カリウムは、犬の細胞内部に最も多く存在する陽イオンで、ナトリウム同様に体内に存在する水分バランスの維持や神経伝達に関与する栄養素です。その他、筋肉の収縮活動促進を行う上でも重要です。 - カルシウム
骨や歯を構成するための成分として働き、犬の体内の筋肉部分や血液、細胞に分布することで、筋肉の収縮や血液の凝固(血液を固める働き)に必要です。 - リン
リンは、犬の体の体液のpH(水溶液の性質を表す単位)の調節をするなど様々な役割を補う生理活性物質(ごく僅かな量で何らかの特有な作用を示す物質)です。骨や歯の構成成分、エネルギーの源ともなる栄養素ですので、不足しないよう注意しましょう。 - マグネシウム
マグネシウムは、300種類程度の酸素を活性化する働きを持ち、酸素反応に関与する栄養素です。その他、エネルギーの代謝や神経機能を維持するために必要とされ、骨の構成成分としても必要不可欠です。 - イオウ
イオウは、犬の被毛や爪などの構成に必要なたんぱく質(ケラチン)の成分として働きます。 - 塩素
ナトリウムとクロール(塩素)は、犬の体内に存在する水分バランスや細胞外液の浸透圧維持、神経伝達や胃酸を再生するために必要不可欠な栄養素です。
ミネラルの欠乏症&中毒、食材
主要ミネラル(7種類)の欠乏症と中毒(一例)
- ナトリウム(味噌や素干しワカメなど)
ナトリウムが不足すると、疲れやすくなったり食欲不振が引き起こされることがあります。反対に過剰になった場合は、便秘やのどの渇きを示すことがありますが、健康体の犬で新鮮な水を適切に摂取できていれば、これら症状を示すケースは少ないのが特徴です。 - カリウム(バナナ、イモ類、肉類など)
カリウムが極端に不足すると、食欲不振や心臓・腎臓の障害などの原因になります。その他、成長期の子犬においては成長抑制が生じる危険性があります。過剰に与えた場合は、不全麻痺などが生じることがありますが、犬においてカリウムの過剰症は引き起こされにくく、腎不全など腎臓に何かしらの問題がない場合に限り多少多めに与えても問題ないといわれています。 - カルシウム(チーズ、ヨーグルトなど)
極端に不足すると食欲低下や成長障害、骨折や骨の結石化抑制を招く危険性があるため、成長期の犬の場合は不足しないよう特に注意が必要。過剰に与えると他のミネラルの吸収を阻害する原因になり、食欲低下、ネフローゼ、シュウ酸カルシウム尿結石などを引き起こす危険性が高まります。 - リン(肉や魚など、たんぱく質が多い食材)
リンは、不足すると食欲低下や被毛の健康阻害、骨折などの原因になるとされ、過剰に与えすぎた場合は腎機能低下やストルバイト尿結石などを引き起こしやすくなります。 - マグネシウム(魚介、藻類、穀類など)
マグネシウムが大幅に不足すると、骨の石灰化(軟部組織にカルシウム塩が沈着すること)の現象や筋肉を弱めるなどの健康被害を及ぼす原因になります。過剰症においては、ストルバイト尿結石を引き起こすことがあります。 - イオウ(肉や魚など、たんぱく質が多い食材)
イオウに関しては、犬の手作りご飯において不足や過剰には特に注意しなくても良いでしょう。基本的には動物性たんぱく質をしっかりと食事で摂取していれば不足しない栄養素ですが、万が一不足した場合には被毛伸長や成長において支障をきたす可能性があります。 - 塩素(食塩や味噌など)
ナトリウムと塩素が不足すると、成長遅延を引き起こす危険性が高まり、逆に過剰に与えた場合は食欲不振などを引き起こすことがあります。
犬の手作りご飯|主要ミネラルのポイント
ここでは、主要ミネラルの種類別の比率や注意点について、詳しく解説していきます。
リンとマグネシウムの比率
総合栄養食ドッグフードであれば、リンとマグネシウムの比率は配慮されていますが、犬の手作りご飯を作る場合はリンとマグネシウムの比率を頭に入れておくと良いでしょう。
一般的にリンとマグネシウムの比率は、1:1~1:2程度の比率を保つことが理想とされていますが、様々な要因で犬の体内ではこの比率が乱れます。
例えば、体内のビタミンD濃度が高まると、リンとマグネシウムの比率が逆になるなどの現象が起こります。
犬の手作りご飯ではそこまでの配慮がなかなか難しいのがデメリットですが、食事で摂取させるリンとマグネシウムの比率バランスが極端に崩れないよう配慮することが大切です。
カリウムは毎日与える
カリウムに関しては多くの食材に含まれているので、犬の手作りご飯を作るときにそれほど気にしなくても良いでしょう。
しかし、他のミネラルと比較すると体に蓄えづらいため毎日の食事で必ず取り入れるよう工夫することが大切。
カリウムはある程度多めに与えても、腎臓機能に障害がでていない犬であれば過剰症が引き起こされにくいので、犬の手作りご飯では不足しないよう調整しましょう。
ただし、腎不全を中心に腎臓機能に問題が生じている犬の場合、与える量に関して獣医師に相談する必要があります。
特定栄養素の過不足に注意しよう!
今回は、ミネラルのうち主要ミネラルの働き、欠乏症や中毒について紹介させていただきました。
犬の手作りご飯を作っている方は、特に特定栄養素の過不足に注意しましょう。
参考文献:
・(獣医師)藤本愛彦,犬の管理栄養士,一般社団法人全日本動物専門教育協会,2018.
・奈良なぎさ,犬と猫の栄養学,緑書房,2016.
・阿部又信,動物看護のための小動物栄養学,株式会社ファームプレス,2008.