日本国内で飼われている犬に関して半数以上が肥満傾向にあり、犬の生活習慣病も増えています。
それでは、病気を中心に肥満は犬の体にどのような影響を及ぼすのでしょう?
今回は、病気の予備軍ともいわれる犬の肥満について、肥満の見分け方や病気リスク、対策などを中心に獣医師に解説していただきました。
犬の肥満の見分け方
ここでは、犬の肥満が及ぼすリスクや肥満度の見分け方についてご紹介致します。
自宅で簡単に行える見分け方ですので、しっかりと愛犬が肥満、または肥満気味でないか確認しましょう。
肥満の見分け方
犬の肥満の見分け方の代表的なものは、
① 犬種による適正体重を用いるもの
② ボディ・コンディション・スコア(BCS)を用いるものなどがあります。
前者は犬種による適正体重の15%を超えた場合に肥満と判断し、後者は外観や触診などによる痩せ~肥満の(一般的には)五段階で肥満を判断します。
BCSの判定方法についてこれから説明しますが、BCSで見分ける方法は慣れれば家庭で簡単に行えるので、日々愛犬の肥満度を確認。
肥満傾向にある場合は、病気予防のために食事管理方法の見直しを行ってください。
BCSの判定方法
BCSの見分け方では、以下の3点を基準にして判定を行います。
① 胸部を触ったときに肋骨がどの程度触れられるか?
② 犬を上からみたときに腰のくびれがどの程度あるか?
③ 犬を横からみたときお腹がどの程度へこんでいるか?
◇ BCSの判定フローチャート(簡易版) ◇
1)胸部を触ったとき脂肪の下に肋骨を感じる
YES→BCS4以下 NO→BCS5(肥満)
2)犬を上から見たとき腰のくびれが明らかにわかる。
犬を横から見たときお腹のへこみが明らかにわかる。
YES→BCS3以下 NO→BCS4(体重過多)
3)胸部を触ったとき肋骨の上の脂肪がほとんど感じられない。
YES→BCS2以下 NO→BCS3(適正体重)
4)胸部の肋骨と臀部の骨盤が外見からみてわかる(皮膚に骨が浮き出ている)。
YES→BCS1(痩せ) NO→BCS2(やや痩せ)
犬の肥満状況
参照データによって多少異なるものの、日本では肥満の犬(BCS 5)が15.8%程度、体重過多の犬(BCS 4)が39.8%程度だという報告があります。
恐ろしいことに、この結果をみると飼育されている犬の半数以上が肥満傾向であるということになります。
肥満は病気だけでなく犬の寿命にも関わっており、あるアメリカの研究では肥満の犬は、健康な犬と比較して2.5年程度寿命が短くなったと報告されています。
ミニチュア・ダックスフンド、チワワ、ポメラニアンなどの犬種では肥満傾向になる犬が特に多く、驚くべきことに犬種によっては最大で90%近くの犬が肥満傾向にあると報告されています。
肥満がもたらす犬への影響
ここでは、肥満によって発症しうる病気リスクや犬の体への負担について説明致します。
ついつい間食を与えてしまいがちですが、愛犬の病気リスクをしっかりと把握して体重管理に努めましょう。
肥満がもたらす病気リスク
犬の肥満によって引き起こされる病気は数多くあり、糖尿病や高脂血症、膵炎などの内分泌・代謝性疾患を思い浮かべる方が多いかと思います。
しかし、内分泌・代謝性疾患に留まらず、血栓症や動脈硬化症、肺高血圧症などの循環器系疾患を引き起こすリスクもあります。
体重増によって四肢の負担が増え、骨関節性疾患のリスクも高めます。
その他、腫瘍性疾患に関しては乳腺腫瘍、膀胱の移行上皮癌では肥満との関係性があるといわれています。
皮膚疾患や泌尿器疾患リスクに関しても肥満が原因で引き起こされることがあり、肥満は数多くの犬の病気発症リスクを高める危険性があるので早めの対策が必要です。
体にかかる負荷リスク
肥満は病気を引き起こすだけではなく、犬の既存の病気の悪化リスクも高めます。
例えば気管虚脱の犬では、肥満により気管周囲に脂肪が蓄積することで物理的に呼吸を阻害。
病気を悪化させるリスクが高まると考えられています。
また、膝蓋骨脱臼などの骨関節性疾患では先天的に病気のリスクを持っている場合がありますが、脂肪による体重増が病気を悪化させることで病気を発症させてしまうこともあります。
肥満により発症した病気が、ドミノ倒しのように既存の病気を悪化させるようなこともあるので犬の体重増加には注意が必要です。
先述で説明したように、肥満は犬の糖尿病などの内分泌・代謝性疾患を引き起こし、これらの疾患は高血糖や高脂血症、高血圧などの症状を引き起こし、さらに心臓や血管にダメージを与えるようなリスクを引き起こします。
肥満がもたらすその他の病気リスク
犬で多い循環器疾患として僧帽弁閉鎖不全症という病気があります。
この病気は、心臓から全身へ血液を循環させるときに大きな負荷が発生する部位である僧帽弁の機能不全が原因で引き起こされるため、高血圧は心臓から全身へ血液を送る負荷の増加と言えます。
僧帽弁閉鎖不全症は肥満による高血圧で、さらに病状が悪化するリスクを高めます。
食事管理で適正体重を維持しよう!
ここでは、犬の適正体重を維持するための食事管理や炭水化物についてご紹介致します。
食事管理におけるリスク低減
先述の通り、肥満は犬の寿命を2.5年程度短くします。
肥満によって病気のリスクが上がるということからも、肥満が犬の健康を害するのは間違いないでしょう。
そこで、最も肥満対策に効果的な方法は食事管理といわれています。
肥満と食事制限の関係を調べた研究では、ドックフードの量を2/3にした場合に16週間で体重は約18%、体脂肪は約43%減少したという報告があります。
この体重の減少(約3.7kg)は、体脂肪量の減少(約3.1kg)とほぼ一致しており、筋肉量の減少などの食事療法の副作用は少ない可能性が高いといわれています。
素人の場合は極端な犬の食事量調整は危険ですので、獣医師に都度相談しながら食事量を調整することが大切ですが、いずれにせよ食事管理が肥満による様々なリスクを減少させる可能性は高いといえるでしょう。
食事管理と炭水化物
人においては一般的なダイエットとして、炭水化物の摂取量を減らす糖質オフダイエットなどの方法がありますが、犬の食事管理と炭水化物は関係があるのでしょうか?
肉食の犬には炭水化物は不要である、炭水化物によって犬が太る、犬は炭水化物を分解できないなどの様々な意見が散見されます。
食事管理に関して言えば炭水化物をはじめとした個々の栄養素の摂取量を考えることは、栄養学的な専門知識を駆使しないといけないので少し難しいことかもしれません。
ちなみに、犬は狩りをしていた時代から動物の胃などの消化器官に含まれる草や穀物を栄養源としていたといわれています。
そのため、全食事量と比較して肉の摂取量が多いものの雑食性だと考えることができます。
このような背景から、犬の体に完全に炭水化物が不必要だというのは考えにくいといえるでしょう。
また、犬の体の構造から考えると、唾液中には炭水化物を分解する酵素がほとんど含まれていないのが特徴ですが、犬の膵臓から分泌されている消化液にはその能力があります。
そのため、犬は炭水化物の消化が苦手だとしても、少量であれば炭水化物を分解することはできます。
食事管理の方法
犬の食事管理における肥満対策では、一日に総合栄養食とおやつをどの程度与えているのか正確に把握することが大事です。
また、犬は与えられた食事を一気に食べてしまうことが多い動物であり、一度にたくさんの食事を消化するためには必要以上の血糖値の上昇を招き、肥満の原因になることがあります。
そのため肥満気味の犬であれば1日の食事量を減らして、ごはんの回数を増やし、1週間後に体重を測定。
体重に変化がない、または体重が増えてしまった場合は1回の食事量をさらに減らして再び1週間後に体重を測定をしながら、少しずつ減量対策を行うと良いでしょう。
気を付けておきたい点としては、お腹が空いて可哀想だからと間食としてのおやつを与えないということです。
家族の方がこっそり与えるようなことがないよう、事前に家族全員が犬の肥満状況やそのリスク、食事量に関して把握しておかなければいけません。
まとめ
今回は、一獣医師としての観点から犬の肥満リスクや食事管理の重要性などをご紹介させていただきましたが、犬の肥満は様々な病気リスクを高めるだけでなく現状犬が発症している病気を悪化させ、ときに寿命にさえ影響することが分かりました。
私も個人的に一愛犬家として甘やかしてしまいがちですので、飼い主さんの気持ちはとても良く理解できます。
最近では、種類は少ないものの総合栄養食基準を満たしたおやつもあるので、このようなおやつを活用したり、普段与えていないドッグフードをおやつとして与え、1回の食事量をその分減らすような工夫も必要です。
いずれにせよ、病気になったり体に負担がかかったりする方が犬にとってはデメリットが大きいので、おやつの量は1日の総合栄養食の2割以内(理想としては1割程度)で、犬の健康を第一に考えて調整してあげましょう。