近年、愛犬と一緒に楽しむ観光スポットも増え、様々な場所で犬連れの家族を見かけます。
そんな中、犬を叱っている場面に遭遇することもありますが、言葉を話さない犬にダラダラと無駄に叱るようなしつけをしている方を見かけます。
今回は、効率的な犬のしつけについて簡単にご紹介致します。
無駄に叱らないしつけとは?
しつけでは、常に〇と×を犬が理解しやすいよう行うことが大切です。
犬の「叱らないしつけ」とは、叱ることを禁止する手法ではなく「無暗に叱らない」、「長い言葉で何度も叱らない」、「体罰などの方法で叱らない」、「犬に理解できない言葉で叱らない」というのが本来の意味です。
正しく理解し、しつけに取り組みましょう。
叱らないしつけが大切な理由
犬のしつけには様々な手法があります。
犬のしつけも子育て同様、時代に合わせて見直しや改善がされているため、以前の常識が必ずしも正解だとは言いきれません。
近年、犬の問題行動などのしつけで一般的に行われるのが褒めて育てる手法です。
犬を家族の一員と考える現代において、無駄に犬を叱らないしつけ手法が主流となっている理由の1つには、犬の知能が関わっています。
基本的に犬は人間の3~7歳児相当の知能発達、言語の理解力が身に付くことが様々な研究で明らかになっていますが、3歳児であれば親はもちろん、周囲の大人の言葉をほぼ理解することができます。
犬は言葉を話すことでコミュニケーションをとる動物ではないので、人と全く同等の言語能力を身につけることができるわけではありません。
しかし、ある程度の言葉は理解でき、成長に伴い状況判断ができるようになったり、友達を作ることや個々の拘りが出てくるというような成長過程は同じです。
このような状況下で体罰を与えることは人と犬の信頼関係を壊し、犬を委縮させて恐怖心などのネガティブな感情を引き出すことで服従させるという歪んだ関係性になりかねません。
犬も無駄に叱ることのない手法でも十分にしつけを行うことができ、何より犬は大切な家族の一員です。
怒鳴ること、叩くことをしなくても、飼い主との理想的な関係性さえ築けていれば、大抵の場合は生活に必要なルールを身に着けることができます。
犬の年齢別、しつけ方法のポイント
ここでは、犬の年齢に配慮したしつけのポイントを簡単にご紹介致します。
年齢別犬のしつけ
「犬は1年で人間の7歳程度の歳をとる」。
このような話を耳にされた方は多いかと思いますが、この換算方法は犬の身体的(肉体的)成長や加齢を意味するための昔の換算方法で、精神的な成長を意味するものではありません。
しつけに取り組む時は、犬の精神年齢を理解するとお互いが相手を思いやりながら、効率的に成果を出すことができます。
犬の精神的成長には個体差はあるものの、一般的には生後1年で人間の18歳程度にまで成長すると考えられています。
つまり、子犬はわずか1年の間に人間でいう赤ちゃんの時期から幼児期、反抗期を経て成人になるのです。
しつけは、この成長のペースに合わせて都度手法や難易度を考えて取り組むのが効果的です。
生後3か月前後~
この時期の子犬は、身体的にも精神的にも赤ちゃんのままです。
お腹がすいた時、寂しい時、甘えたい時など、自分の要求が先立つ傾向にあります。
半面、家族の存在や他犬の存在にも目が向く時期で、人を含む他動物と共に暮らすことや遊ぶこと、相手との上下関係などにも関心がでてきている年齢です。
この時期のしつけはまさに褒めること、叱らないことを重視し取り組みましょう。
排泄場所、お座り、マテ、コイ、ハウス、無駄吠え防止、噛み癖防止など、生活の基本となるしつけを時間をかけてしっかりと教えます。
教えたこと、正しいことができた時に思い切り褒めて、オヤツなどご褒美を与えることで犬が行った行動=正解であることを理解させましょう。
ただし、この時期は甘噛みや無駄吠えなどの犬の問題行動やイタズラも目立つ時期です。
このような問題行動が起こったときには「No!」、「ダメ!」など短く低い音域で、タイミング良く叱ることも大切です。
長時間に渡って無駄に叱るような叱り方は禁物。
子犬は、まだまだ言葉の理解度や学習能力が低く、何度も同じ失敗を繰り返したり、激しく無駄吠えをしてしまいがちです。
しつけは、子犬期の脳の発達度合いも理解した上で、時間をかけて長期スパンで何度も教えてあげましょう。
特にトイレのしつけに関しては注意が必要。
子犬が場所を覚えていても、消化器官が未発達なことが原因(身体的原因)で排尿・排便コントロールができないこともあるので配慮してあげましょう。
身体的都合上致し方がないことに対して叱ってしまうと、子犬は委縮して混乱してしまい、噛み癖などの反抗的な態度が併発してしまうことがあります。
さらなる問題行動が生じる危険性がありますので、叱らずに褒め伸ばしで繰り返し教えてあげることが大切です。
生後半年~
個体差はありますが、目安として犬は生後半年で中学生、生後1年で高校生と精神的な成長を遂げます。
この時期は、人間であれば反抗期に該当し、自立を意識しはじめる年齢です。
犬にも人と同じよう反発しやすい年齢があります(年齢に関しては個体差あり)ので、頭ごなしに叱ることで反発心も芽生えやすく、飼い主と犬の関係性も悪化しかねません。
無駄に叱らないこと、言葉や態度で理解させること、褒め伸ばしで繰り返し教えることを心掛けてしつけを行うと良いでしょう。
生後半年を過ぎると、それぞれの犬の性格、自我が完全に確立されていますので、しつけを行う場合はまずは個々の犬がどんな性格かを見極め、飼い主が受け入れることが大切です。
個々の犬の得意なこと、苦手なことを家族が理解し、お互いが歩み寄る形でしつけを行うと良いでしょう。
生後半年以降のしつけの内容としては、ハウス、お座り、飛びつき防止、リードの引っ張り防止、無駄吠え防止、甘噛み防止など、生活の中で守るべきルールをしっかりと犬に習得させます。
「叱らない=甘やかす、無駄吠えを放置する、噛み癖を許す」という解釈ではありませんので注意が必要です。
しつけを行う際に何より大切なことが、犬が飼い主を敬愛している関係性であるか否かです。
群れで生活してきた犬の習性で例えると、如何なる時も飼い主が頼もしいパックリーダーであることが重要です。
このように、まずは犬に敬愛されるような関係性を築くことに焦点を置き、危険な行為、無駄吠え、噛み癖などの迷惑や危険になる行為を行わないようメリハリをつけてしつけを行いましょう。
効率的なしつけの基本
犬のしつけには様々な手法があります。短期間で基本的なしつけを犬に習得させるためには、家族全員が同じルールで愛犬に指示できるよう心がけましょう。
テーブルの上にある食べ物を分け与える場合
・母→ 犬には食べ物は与えない
・父→ 犬が催促すれば食べ物を与える
・娘→ 食べ物を与えることもあれば与えないこともある
このような環境では、犬はテーブルの上の食べ物が食べてはいけないものかどうか判断がつきにくい状況に陥ります。
結果、食べ物をもらえなかった際、要求吠えの原因になるなど、新たな問題行動が生じる原因に成りかねません。
しつけのコマンド(指示)に関しても同様、家族によって「お座り」、「sit」、「座って」などと単語が異なると、犬は1つのしつけに対して3つの単語を覚えなければいけないため、非常に効率が悪くなります。
しつけを始める前に家族で生活のルールやコマンドを決め、一度決めたルールは安易に変更したり、人によってルールが変わるということの無いよう注意しましょう。
犬の問題行動におけるしつけ
ここでは、よく犬にみられる無駄吠え、破壊行為、噛み癖の問題行動についてご紹介致します。
無駄吠えのしつけで大切なこと
多くの場合、先天的な原因でない限りは犬の無駄吠えは警戒や緊張、恐怖が引き金で起こります。
日頃から愛犬に様々な種類の生活音を聞かせ(不必要な騒音は禁止)、無駄吠えをしてはいけないこと、音によって犬に危害が加わらないということを理解させてあげましょう。
玄関チャイムなどに無駄吠えをする場合は、「No!」などのコマンドだけだけでなく、「ハウス」や「お座り」などの愛犬がとるべき行動を具体的に指示すると、愛犬もスムーズに行動に移すことができ効果的です。
無駄吠えに関しては、犬の本能的要素が大きくかかわっているため、改善するのには限度がある、または時間がかかることが殆どですが、チャイムが鳴った際に犬が集中できるもの(噛むおやつや玩具など)で気をそらすなどの対策も効果を示すことがあります。
また、無駄吠えをする犬の場合、飼い主と犬の上下関係が逆になっていることが多いので、無駄吠えのしつけ以前に愛犬と自身の関係性についても見直すことが大切です。
破壊行為のしつけで大切なこと
子犬は歯の生え変わりのむずがゆさから、大抵は甘噛みをします。
破壊行為は悪気がある行動でなく、「噛む」という犬の本能や習性、歯の痒さなどが原因となる場合もあるので無暗に叱ってはいけません。
また、犬の破壊行為に関してはストレスが原因で引き起こされることが多いのが特徴です。
運動不足、過度な運動、飼い主と犬の不適切な関係性、コミュニケーション不足、環境の変化、睡眠不足、病気や老衰などの身体的な問題など、犬にストレスがないかを再度考えてあげることも大切です。
ストレス原因に関しては、飼い主さんが気づきにくいものがあるので注意が必要ですが、ストレスを抱えた状態では犬の破壊行為は改善しません。
噛み癖のしつけで大切なこと
甘噛みや噛み癖は、子犬の成長過程で起こる生理現象の1つです。
噛む動作をすることで歯茎のむずがゆさを解消したり、自身の成長を実感するなど様々な効果があります。
大抵甘噛みや噛み癖は叱るしつけ方法では効果はないため、子犬が噛んでもいいものを与える、飼い主の手や足でじゃれ合い遊ばせないなどの対策で乗り切ることも大切です。
犬の年齢に関わらず、全般的に「噛む」という習性や本能が強い犬に全てのものを噛むな、といっても現実的に無理が生じます。
噛んではいけないというのではなく、「噛んで良いもの」と「絶対に噛んではいけないもの」を判別する能力をつけさせるようしつけを行うことが大切です。
噛むという行動は、犬のストレス発散にも役立つため、あらかじめ噛んで良いおやつや玩具を準備しておくと良いでしょう。
重度の犬の問題行動
犬によっては肉体的ストレスや過度な精神的ストレス、トラウマが原因で問題行動を起こすことがあります。
常同障害(犬の強迫性障害)や分離不安症などが問題行動の原因になっていたり、愛犬の問題行動が明らかに重度な場合は獣医師免許保有の専門家に相談することが大切です。
最近では犬の精神面に重点を置いて治療を施す心療内科のような動物病院も増え、行動療法だけでなく、犬の状況によっては薬物療法(抗不安薬など)や去勢手術を中心とした外科手術の併用が勧められることがあります。
犬が明らかな問題を抱えているようであれば、早めに精神分野を得意とする獣医師に相談しましょう。
まとめ
犬のしつけについて簡単にご紹介致しましたが、そもそも犬の問題行動とは下記の3つに該当するものです。
・本来確認される犬の先天的性質行動が極端に見られたり見られなかったりする場合
・本来確認されない犬の先天的性質行動が確認される場合
・発達変化や習得変化によって生じうる行動変化が確認されない場合
人と犬が共に快適に暮らすためには必ず犬のしつけは必要になりますが、そもそも「犬の問題行動」の概念自体、人が造り出したものであることを理解することも大切です。
犬として生物学的特性(性質)上当たり前のことであっても、人間社会で問題とされる行動が「問題行動」と呼ばれます。
人と犬が共に豊かな暮らしを実現するためには、異なる生き物としての習性を理解して、互いが歩み寄ることのできるような関係性構築が何より大切なのではないでしょうか。