老犬のトリミングの危険性や自宅ケア方法〔トリマー解説〕

The dangers of trimming older dogs

トレーナーとして働いていた職場にトリミングサロンがありましたが、サロン内の暑さに驚くことが多々ありました。

トリミングサロンでは、お湯やドライヤーを継続的に使用する関係上、冷房設備がある場所であっても温度が長時間上昇することがあります。

そのため、老犬に関わらず免疫力が低下している犬には危険を伴うことがあります。

今回は、過去にトリマーとして勤務経験のある資格保有者に、老犬のトリミングの危険性について解説していただきました。

dog trimmer

老犬のトリミングの危険性

shiba inu staring something

老衰や病気によって体に何かしらの問題がある老犬の場合、または老衰によって免疫力が低下傾向にある老犬の場合は、トリミングが命に関わることもあります。

トリミングによってかかる犬へのストレス

老犬にとってトリミングは、精神的、肉体的に想像以上の負担をかける原因になり、これは何年も通い続けているトリミングサロンであっても同じです。

犬も年齢を重ねると老衰によって免疫力が低下し、何かしらの病気発症中であれば尚更トリミングは危険な行為になります。

また、外出やトリミングが苦手な老犬の場合は、大きな精神的負担も長時間かかることになります。

自宅で行うことができるケアは極力自宅で行い、病気発症中の場合は念のため動物病院でのシャンプーサービスを利用することをおすすめします。

また、トリミングにどうしても行かなければいけない場合は、頻度を減らすといった工夫も必要です。

老犬をトリミングする際の心臓への負担

温泉浴やマイクロバブル、エステなどトリミングサロンには様々な方法の温浴メニューが用意されています。

自宅でトリミングをするときに家族同様に湯舟や小型のバスに老犬を浸けている方もいるでしょう。

しかし、一見犬がリラックスしているように見える温浴は、実は老犬には大変危険な行為となり得ます。

人間と違い、犬にはエクリン腺と呼ばれる体温調節を可能とする汗腺が、肉球や鼻先などごく少数の部位にしかありません。

このように体の構造が人と異なることから、老犬に関わらず犬は全般的に暑さに弱いとされます。

ましてや免疫力が低下傾向にある老犬の場合は、大変危険な行為であることを理解しましょう。

僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症、先天性心血管奇形を中心に心臓疾患がある場合、心臓に何かしらの問題がある場合は急激な心拍数の上昇によって、命にかかわる危険性もあります。

お風呂やシャワー、カットなど疲労を伴うお手入れは、必要に応じて最低限の頻度で実施。

短時間で危険を最小限に抑える方法で行うことが大切です。

トリミング中の熱中症リスク

老犬は、トリミング中のドライヤーで熱中症リスクが高まります。

これは夏のトリミングに限ったことではなく、季節問わず室温や湿度の上昇によって引き起こされます。

一般的に熱中症は短時間で症状が引き起こされますが、目に見える症状が起こらず静かに症状が進行することもあります。

トリマーに限らず、飼い主さんも症状を見過ごしてしまいがちですので十分注意が必要

老衰がみられる犬にとって、トリミング中の長時間のドライヤーは大変危険な行為であることは頭に入れておく必要があります。

トリマーや使用するドライヤーによって異なるものの、トリミングサロンでは柴犬やシーズー、プードルなどのドライヤーに30分以上かかることもあります。

大型犬はブラッシング込みで1時間程度かかることも珍しくありませんが、直前までお湯を浴び、心拍や体温が上がっている状態でドライヤーをかけるため、老犬に関わらず全ての犬において体に負担がかかっていることはいうまでもありません。

熱中症リスクに関しては自宅でケアする場合も同様ですが、自宅でケアする場合は都度老犬の状況を細かく観察しながら休憩させるなどの工夫ができ、移動時間や移動ストレスがないのもメリットです。

自宅でシャンプーを行う場合は、予めシャンプー後のタオルドライで入念に被毛の水分を取り除き、ドライヤー時間を短縮

犬の様子を見ながら水分補給をしたり、休憩をはさむなどの工夫をすると良いでしょう。

トリミングによる老犬の股関節負担

トリミングサロンでは、それぞれの犬種ごとの作業時間の目安が設けられています。

ベテラントリマーであれば一般的にトリミングの目安時間は、プードル3時間以内、大型犬2時間以内、小型犬1時間以内が目安とされます。

いずれにせよ、犬達は長い時間直立姿勢(座っていても固定された状態)で体勢を維持しなければいけません。

そのため、トリミング中に同じ姿勢をトリミングテーブルの上で保ち続けることが、いかに老犬の体や精神面に負担をかけるのかを理解してあげることが大切です。

股関節形成不全やヘルニアを中心に、四肢、腰、背中などに何かしらの問題がある老犬の場合は特に注意が必要です。

トリミング後注意したいこと

brown toy poodle

トリミングサロンでは異常が無かったものの、帰宅直後やトリミングサロンを利用した日の夜間に体調を崩したり、突然死してしまうことがあります。

これは、極度の緊張や疲労心臓への過度な負担などが原因だと考えられ、安心できる居住空間である自宅に戻り、緊張の糸が途切れることが関係しているといわれています。

老犬に関わらず、トリミングサロンを利用する場合は、直前数日間の体調や当日の作業時間帰宅後の様子の確認を入念に行いましょう。

その他、トリミングの後は十分自宅で休憩させてあげることが大切です。

自宅でできる老犬ケア方法

dog on the bench

ここでは、自宅でできる老犬のケア方法について簡単にご紹介致します。

老犬が病気発症中でシャンプーなどの自宅ケアに不安がある方は、必ず事前に獣医師に相談しましょう。

老犬のブラッシング方法

加齢による皮膚ダメージが生じている老犬の皮膚は、大変デリケートです。

ブラッシングをするときは、余分な力を入れず被毛の流れを整える要領で行いましょう。

長毛の犬種にはピンブラシ、短毛の犬種にはラバーブラシ、艶出しには獣毛ブラシ、毛玉がある箇所はスリッカーブラシがおすすめですが、いずれの場合も強く皮膚を擦るようなことがないよう注意しましょう。

また、低刺激成分の犬用ブラッシングスプレーを同時に使用すると櫛通りがよくなり、毛玉を除去しやすいのでおすすめです。

ブラッシングは長毛種だけでなく短毛種も、週に数回は習慣化して欲しいトリミング方法です。

老犬になり新陳代謝が低下すると、皮膚トラブルの増加が目立ちます。

こまめなブラッシングは皮膚に適度な刺激をあたえ、新陳代謝の促進につながります。

また、換毛期を中心に無駄な抜け毛を除去することで、皮膚や被毛の通気性も改善されて皮膚トラブル予防効果も期待できます。

老犬のシャンプー方法

シャンプーは月に1回程度が目安です。

ただし、冬季など空気の乾燥する季節や寒い季節、汚れや臭いが目立たない場合は、2ヵ月に1回でも可。

乾燥しがちな老犬の皮膚を守ってあげましょう。

免疫力が低下している老犬の場合は、シャンプーは小型犬であれば20分以内、中型犬は30分以内、大型犬でも30分前後を目途に終え、タオルドライを入念に行います。

自宅の閉め切った浴室は湿度が高く室温も上がりやすいので、出来る限り短時間で終えて老犬の体や心の負担を最小限にとどめましょう。

シャワーで体を湿らせる直前にブラッシングを済ませ、余計な抜け毛や毛玉、絡まりは事前に取り除いておくと、さらに効率良くシャンプーやドライができます。

ただし、老衰状態が重度の場合や病気を発症している場合は、万が一のことを考え事前に獣医師に相談することが大切。

その他、シャンプーを行う際は、シャンプー液やリンス液が目や鼻、耳や口などに入らないよう十分注意して、液剤を流すときは35~37度程度のぬるま湯で流しましょう。

お湯の温度は、愛犬の様子を見ながら都度調整が必要です。

身体の都合上シャンプーが困難だと判断した場合は、拭くだけで汚れが除去できるシャンプータオルの活用がおすすめです。

こちらもシャンプー同様、目や口、耳、鼻などにタオルの液剤が入らないよう注意しましょう。

老犬の爪切りの方法

爪切りの目安は月に1回ですが、爪が伸びる速度やすり減る度合いは犬によって異なります。

犬が歩行する際に地面と爪が接触してカチカチ音がなる場合は、爪切りを行いましょう。

散歩や外出の機会が減っている老犬の場合、爪が地面と摩耗することが少なくなるため爪が伸びやすくなります。

伸びすぎた爪は、体を掻くことで皮膚や目など様々な部位に傷をつけたり、歩くときに関節に余計な負担をかける原因になります。

爪切りは従来のギロチン型以外にも電動ヤスリ型やハサミ型など様々な形状の商品がありますが、爪内部の血管を切ってしまわないように十分注意が必要。

上記写真を参考に、適切な方法でカットしましょう。

老犬の肛門腺絞りの方法

肛門腺絞りのお手入れ目安頻度は、月に1回程度です。

なお、老犬であっても自身の力で便と一緒に分泌液を排泄できる犬の場合は肛門腺絞りは必要ありません。

分泌物の匂いが強いのでトリミングやシャンプーの際に同時に済ませるとよいでしょう。

肛門を中心に三角形を角にあたる部分に軽く指をあて、押し上げるように肛門腺の分泌液を絞りだします。

ただし、短尾の犬種(コーギー、パグ、フレンチブルドック)などは肛門腺の位置が深いことが理由でプロのトリマーであっても苦戦することがあります。

自宅で行うのが難しい場合は、動物病院で処置してもらいましょう。

老犬のデンタルケアの方法

老犬になると口臭や歯垢、歯石の悪化が深刻化して口腔内の病気を発症しやすくなります。

歯磨き習慣が無い犬の場合、スムーズに自宅でのケアを受け入れてもらえないので、老犬のデンタルケアは指に巻き付けるようなガーゼタイプの歯磨きを使用するなど、老犬にとっても飼い主さんにとってもストレスにならないよう工夫しましょう。

歯磨きは何より日々の継続が大切です。

老犬のトリミングやケアには注意が必要

old dog

今回は、トリマー免許保有者に老犬のトリミングの危険性について解説していただきました。

老犬は病気を発症していなくても、老衰によって免疫力が低下していたり、四肢、腰などの体の機能が低下していることがあります。

十分ケアには注意を払い、愛犬が病気発症中の場合や老衰が見られる場合は獣医師に相談してから適切なケアを行いましょう。