愛犬に手作りご飯を作る方が増えてきましたが、作るときは犬に必要な栄養素について配慮して食材選びをする必要があります。
今回は、犬の手作りご飯に必要な必須栄養素ビタミンとその食材について、犬の管理栄養士がご紹介致します。
なお、ここではビタミンの種類や欠乏・過剰によって起こりうる問題や食材を中心に紹介していきます。
犬に必要な栄養素の欠乏症と中毒
犬に必要な栄養素は、たんぱく質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラルの5大栄養素であり、これらに水を加えて6大栄養素と呼ぶこともあります。
犬の手作り食で注意したい栄養バランス
手作りご飯やドッグフードでは、これら必要栄養素がある程度犬の体に適したバランスで配合されている必要があります。
そのため、特定の栄養素が極端に不足すると欠乏症として体に何かしらの症状が引き起こされる可能性があります。
また、特定の栄養素が極端に過剰に含まれる食事によって、中毒症状が引き起こされることもあります。
犬の手作り食を作るためには最低限の栄養学知識が必須
愛犬の健康維持のために作る手作りご飯では、必要栄養素や食材に関する基礎知識が最低限必要になります。
愛犬にも品質の高い食事をと、愛情を込めて作った手作りご飯のせいで愛犬の体調が悪くなるのでは意味がありませんので、基礎知識は身につけておきましょう。
犬の体に必要なビタミン
ビタミンは体内の合成だけでは犬の体における要求量を満たすことができないため、種類によっては食事からの摂取が必要不可欠になります。
犬の手作りご飯においては、大幅に量が不足することで欠乏症が引き起こされる可能性が高まります。
その他、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)を中心に、与えすぎによって中毒症状を引き起こしやすいビタミンもあるため十分注意が必要です。
脂溶性ビタミンと水溶性ビタミン
犬に必要なビタミンは脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに分けられ、それぞれ特徴が異なります。
脂溶性ビタミン(4種類)
ビタミンA(レチノール)
ビタミンD(カルシフェロール)
ビタミンE(トコフェロール)
ビタミンK(フィロキノン)
脂溶性ビタミンは犬の体に貯蓄しやすいため、手作りご飯では過剰(中毒)にならないよう注意が必要です。
中毒性は、ビタミンAが一番強く、Dがその次、Kがその次になります。
ビタミンEに関しては中毒性はほぼないと考えられています。
水溶性ビタミン(10種類)
ビタミンB1(チアミン)
ビタミンB2(リボフラビン)
ビタミンB3(ナイアシン)
ビタミンB6(ピリドキシン)
ビタミンB12(コバラミン)
葉酸
パントテン酸
ビオチン
コリン
ビタミンC
水溶性ビタミンは犬の体に貯蓄しにくいため、手作りご飯では不足しないよう注意が必要です。
犬におけるビタミンの役割
ここでは、犬の体で脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンがどのような役割を補っているのか説明します。
脂溶性ビタミンの役割
脂溶性ビタミンの種類別の役割について、ご紹介していきます。
ビタミンA
ビタミンA(レチノール)は犬の皮膚や粘膜、目の健康維持に必要な栄養素。ビタミンAの前駆体であるβカロテンには、抗酸化作用が期待できます。
ビタミンD
ビタミンD(カルシフェロール)は、骨代謝や甲状腺機能の正常化などに必要とされる栄養素です。
ビタミンE
ビタミンE(トコフェロール)は、抗酸化作用が期待できる栄養素で、犬の毛細血管の血行促進にも必要とされます。
ビタミンK
ビタミンK(フィロキノン)は、骨の健康維持や血液凝固に関わる栄養素で、体に吸収しにくいが欠乏症はごく稀。犬においては、過剰症になりやすいのが特徴です。
水溶性ビタミンの役割
水溶性ビタミンの種類別の役割について、ご紹介していきます。
ビタミンB1
ビタミンB1(チアミン)は、犬の神経機能を維持したり、糖質の代謝に関与する栄養素で、熱に弱いという特性を持っています。加工途中でビタミンB1が破壊されやすいため、総合栄養食表記のあるドッグフードであっても合成ビタミンを使用していることがあります。
ビタミンB2
ビタミンB2(リボフラビン)は、アミノ酸や糖質、脂質などの代謝に関与しており、補酵素として働きます。その他、細胞を再生するためにも必要です。
ビタミンB3
ビタミンB3(ナイアシン)は、犬のエネルギーの代謝に携わる補酵素で、安定性の高い栄養素だといわれています。欠乏症や中毒が引き起こされにくいのが特徴です。
ビタミンB6
ビタミンB6(ピリドキシン)は、アミノ酸代謝における副酵素としての働きを補い、たんぱく質や脂質の代謝に関与している栄養素です。
ビタミンB9
ビタミンB9(葉酸)は、「プテロイルグルタミン酸」とも呼ばれ、犬の体内でアミノ酸分解に関与しています。その他、DNAを合成するためにも必要とされます。
ビタミンB12
ビタミンB12(コバラミン)は、赤血球を産生するために必要な栄養素で、犬の神経機能を正常に保つためにも必要とされます。
パントテン酸
パントテン酸は、たんぱく質や脂質、糖質(エネルギー)の代謝を促進するために必要な栄養素です。
ビオチン
ビオチンは、脂肪酸や糖などの代謝に関与する栄養素で、犬においては被毛の健康維持にも役立ちます。
コリン
コリンは、脂質の代謝に関与する栄養素で、神経伝達物質(アセチルコリン)の構成要素としても犬の体には必要とされます。
ビタミンC
ビタミンC(アスコルビン酸)は、抗酸化物質として犬の体内で働き、活性酸素を除去。体の酸化を防ぐために必要な栄養素です。その他、結合組織を強化するために重要な役割を果たします。
欠乏症と中毒、食材について
ここでは、犬に必要なビタミンの欠乏症と中毒についてご紹介致します。
犬の手作りご飯では、水溶性ビタミンは不足しないよう注意が必要。
脂溶性ビタミンは過剰に与えて中毒症状を引き起こさないよう注意が必要です。
脂溶性ビタミンの欠乏症と中毒
脂溶性ビタミンは体に蓄積しやすいビタミンであり、犬の手作りご飯においては過剰にならないよう特に注意が必要です。
ビタミンA(豚や鶏のレバー、卵など)
犬の手作りご飯においては、ニンジンやカボチャなどのβカロテン(植物に多く含まれているビタミンAの前駆体)に関しても注意が必要。
βカロテンに関しては、体内への吸収率が悪いことからビタミンA効果がレチノールより低いと考えられていますが、過剰に継続的に与えないようにしましょう。
ビタミンD(魚類や卵など)
ビタミンD(カルシフェロール)が大幅に犬の体内で欠乏すると、骨軟化症の原因になることがあります。
その他、成長途中の犬に関してはくる病発症リスクを高める原因にもなります。
中毒症状としては、過カルシウム血症(高カルシウム血症)や腎障害の原因になることがあります。
ビタミンE(ナッツや魚介類など)
ビタミンE(トコフェロール)は、脂溶性ビタミンであっても過剰になりにくいのが特徴。
大幅に不足した場合は、皮膚や被毛の劣化、骨格筋変性などの原因になることがあります。
ビタミンK(パセリやほうれん草、紫蘇など)
ビタミンK(フィロキノン)が過剰になると、犬においては中毒症状によって貧血症状や高ビリルビン血症などを引き起こすことがあります。
また、健康体の犬でビタミンKが不足するケースは殆どないものの、何かしらの事情で大幅に不足した場合は血液の凝固時間が延びる危険性があります。
水溶性ビタミンの欠乏症
水溶性ビタミンに関しては、コリン以外は全てにおいて中毒症状(過剰症)は引き起こされにくいと考えられています。
犬の手作りご飯をつくるときは、これらビタミンの欠乏症に特に注意しましょう。
ビタミンB1(豚肉やレバー肉、豆類など)
ビタミンB1(チアミン)は、犬の手作りご飯を中心に食事からの摂取不足によって欠乏症が生じやすいのが特徴。
不足した場合、成長時の発達障害や神経障害が引き起こされる可能性があります。
ビタミンB2(魚介類や肉類、卵など)
ビタミンB2(リボフラビン)は、犬において欠乏症が引き起こされにくいとされていますが、不足した場合には欠乏症として食欲低下や体重減少、皮膚炎などがみられることがあります。
また、過剰に与えて中毒症状を引き起こすことは考えにくいといわれています。
ビタミンB3(舞茸や椎茸などのキノコ類)
ビタミンB3(ナイアシン)は、ビタミンの中では安定性が高く、欠乏症や中毒症状が引き起こされにくいのが特徴。
しかし、継続的に大幅に不足した場合は下痢や皮膚炎などが生じる可能性があります。
ビタミンB6(マグロやカツオなど)
ビタミンB6(ピリドキシン)は、犬において中毒となる可能性は殆どないといわれています。
体内で大幅に不足した場合は、貧血や成長不良、食欲不振などが生じるケースがあります。
ビタミンB9(緑黄色野菜やレバーなど)
犬の体内でビタミンB9(葉酸)が大幅に不足した場合、貧血や成長不良の原因になることがあります。
中毒症状に関しては、非常に起こりにくいと考えられています。
ビタミンB12(魚介類や肉類、卵など)
ビタミンB12(コバラミン)が不足した場合、神経障害や食欲不振、貧血などの症状を引き起こすことがあります。
犬の食事で中毒になるケースは非常に少ないといわれています。
パントテン酸(レバーや納豆など)
犬の体内でパントテン酸が大幅に不足すると、成長遅延や脂肪肝(脂肪が肝臓部に蓄積する病気)を生じる危険性があります。
ビオチン(レバーや卵など)
ビオチンが不足すると、食欲低下や過尿症(過度な尿意を主症状とする病気)、角化症や脱毛症状を引き起こす危険性があります。
コリン(卵や豚レバー、納豆など)
コリンが犬の体内で過剰になると、下痢症状を引き起こすことがあります。
また、大幅に不足した場合は脂肪肝(脂肪が肝臓部分に蓄積する病気)や嘔吐、成長遅延などの原因になります。
ビタミンC(ブロッコリーやピーマン、キウイフルーツなど)
ビタミンC(アスコルビン酸)に関しては、中毒(過剰症)と不足(欠乏症)は、犬において引き起こされにくいといわれています。
実は危険な犬の手作りご飯
今回は、犬の手作りご飯に役立つ栄養学、ビタミンについてご紹介致しました。
愛犬に手作りご飯をつくる上で全ての栄養素において欠乏症や中毒の内容を暗記する必要はありませんが、1つ1つの栄養素全てに意味があるのだということを理解しておかなければいけません。
犬の手作りご飯レシピをインターネット上で多く見かけますが、栄養バランスを考慮すると大変危険なレシピも数多くあります。
手作りご飯がしっかりとバランスの良い食事になっているか都度見直すことが大切です。
参考文献:
・(獣医師)藤本愛彦,犬の管理栄養士,一般社団法人全日本動物専門教育協会,2018.
・奈良なぎさ,犬と猫の栄養学,緑書房,2016.
・阿部又信,動物看護のための小動物栄養学,株式会社ファームプレス,2008.